act 24
襖と襖の間から、新緑とやさしい太陽の光が差し込む。
あぁ、こんなに優しい光を、こんなに穏やかな気持ちで浴びる日が来るなんて。
死を受け入れ、待つ身というものはこんなにも静かなものなのか。
沖田総司のこの頃の日々というのは、1日1日が大切で輝くものであった。
忙しく駆け抜けていった京都の日々が嘘のように。
「沖田せんせーい、お昼ですよー。おかゆです。」
馴染みの足音をさせて、お盆に小さな土鍋を乗せたが部屋に入ってきた。
まぁ、この家には自分としかいないのだから、足音の持ち主はしかいないのだが。
長い屯所生活の所為で、足音で誰か聞き分けられるという奇妙な業を身につけてしまったのだ。
特にの足音は、特に。
「いつもありがとうございます。・・・うわ、色が・・・。」
おかゆの色を見ると、緑色のような、茶色のような、ひとことで言うと美味しくなさそうな色だった。
「おかゆだけでは栄養が足りないでしょう?だから、今日は人参とほうれん草を潰して入れてみました!」
「栄養満点ですよ?」なんて、はじけるような笑顔で言われては総司は何も言えない。
人参のおかゆと、ほうれん草のおかゆを別々に作ったら綺麗な色だったのになんて言えない。
「こんな色ですけど、味はおいしいんですよ?カツオ出汁が効いてて。」
は総司に渡すはずのおかゆを一口食べて「うん、美味しい美味しい。」と言って、
総司の寝床の傍に置いた。
「おひとりで食べれます?」
「うん、今日は調子が良いから食べられますよ。でも今日は食べさせてほしい気分です。」
と言って、総司はツバメの雛のように口をあーんと大きくあけた。
その様子にはクスクス笑って、れんげにおかゆを適量に掬い、総司の口に運んだ。
確かに、味は美味い。
「不思議ですね、ほんとに味はおいしいです。」
「でしょう?」
そして2人で笑いあう。
こんな穏やかな日々が送れるなんて思ってもみなかったですよ近藤さん。
遠くの地で近藤さん達が戦っているというのが嘘のようだ、本当に。
「ごめんくださぁーーーい!」
その時、明るくて元気のいい声が玄関から聞こえた。
その声にも大きな声で「はぁーい!」と返事をする。
「ねぇさんだ!」
こんなにデカくて通る声の持ち主、そしてここに尋ねてくるのはただ一人。
沖田総司の姉、沖田ミツしかいない。
ドタドタと総司とのいる部屋に入ってきた。
「あ、ごめん総司!食事中だった?あー!またちゃんに食べさせてもらって!!甘えてるんだからー!」
「良いじゃないですかぁ、私は病人なんだし。ねぇ??」
「え?あ、はい!」
「ダメよー!ちゃん!甘やかすとすぐ調子に乗るんだから!」
「だって、にご飯食べさせてもらった日は、食後の苦ぁーい薬が甘くなるんですよ。不思議だよねぇー。」
ニコーとに向かって笑いながら総司は「おかゆもっと」とせがむ。
「アホかーーー!!」
スパーン!と病人の総司の頭を何のためらいもなくミツがはたく。
それを見てはオロオロする。
「おぉぉおぉぉミツさん!!!!!沖田先生一応病人だから!!!!」
「一応でしょー?こんなバカ言ってるヤツは、病人だろーが病人じゃなかろーがハタかないと!」
「何その理由ーーーー!!!」
ミツの総司に対する接し方は昔から何も変わらなくて、総司はその点に感謝し、また気力を貰えると思っている。
は、ミツにお茶を入れてくると席を立った。
総司はなんだか、が奥さんみたいでくすぐったくなった。
自然と笑みがこぼれてしまう。そんな総司を見て、ミツは困ったように笑った。
「総司、あんた本当に幸せ者だよ。」
「はい。」
「籍も入れずにさ、一人身の女子(おなご)が一緒に暮らしてくれてんだ。」
「はい。」
「あんたはこの先短いかもしれない。けど、想いを伝えて一緒になるってことも大切なんじゃないの?」
ミツが真剣な眼差しで総司を見つめる。
総司はミツのいきなりの言葉に一瞬キョトンとしたが、すぐに「違うんですよ。」と、にっこり笑った。
「私はに惚れてますが、はちがいますよ。」
「・・・え?」
「あの子は、私に惚れてると勘違いしているんです。」
「・・・は?」
ミツはいきなりの総司の告白に素っ頓狂な声をあげた。
「惚れてるって勘違いって?は?」
「彼女は彼女自身の勘違いで、私の世話をしてくれてるんです。まぁ、近藤さんからの命令もありますけど。
彼女の目を見ればわかりますよ。私を愛してくれています。家族として、ね。」
「家族?」
「そう、兄さんみたいなもんなんじゃないですか?」
「・・・家族。」
「きっと私が彼女に顔を近づけても、彼女はどぎまぎしないと思いますよ。私の心の臓は壊れるくらいどぎまぎしててもね。」
「でも、彼女は自分が私に惚れてると勘違いしてる。」と、総司は笑った。「彼女は恋をしたことがないんだ。」
「だから、私はこのまま夫婦ごっこのままで良いんです。」
「・・・総司。」
「これが、私の最大のワガママです。」
には悪いけど、私の目が届くうちは私の腕の中に閉じ込めておきたいんだ。と、笑う総司にミツは何も言えなかった。
***
全身ボロボロの山崎退は屯所の廊下を歩いていた。
先ほど、沖田総悟のバズーカに吹き飛ばされたあげくに、フルボッコにされたのだ。
それにしても、先ほど見た沖田の姉はとても綺麗な人だったと思う。
やっぱり兄弟のどっちかがちゃらんぽらんだと、もう片方はしっかりした子になるんだなぁと思う。
世の中バランスが取れるようになってるんだなぁ。
「山崎さん!いいところにいた!山崎さん!!」
後ろから自分を呼ぶ声がする。
誰かなんて悩む必要がない。真選組で唯一の花、だ。
山崎が声のする方へ振り向くと、そこにはいつもの袴の中性的な格好で過ごしているではなく、
淡い紫の着物に身を包み、簪をさしたがいた。
「ど、どどど、どうしたのちゃん!女の子みたいなかっこ。」
(あ、あれ?今俺ものすごく失礼な言葉を発したんじゃ・・・。ちゃんは女の子だぞ。
しかも、久しぶりに見る着物姿が似合っちゃって似合っちゃって、ものすごく可愛いんだけど・・・!
え、まてまて、街に出る時もいつも袴のちゃんが着物?え?デート?え?何?)
山崎がに失礼な言葉を言い、百面相をしているので、は困ってしまう。
「あ、やっぱり変でした?女の子の格好ってイマイチどうしたら良いのか分からなくて。」
山崎さんに助言を貰おうと思ってたんですけど、と、照れながら言うに、固まっていた山崎は
ズンズン近づいての肩をガシっと掴んだ。
「いい!!ものすごく良いよ!!」
「ほんとですか?」
山崎の言葉にの表情はパァっと明るくなった。
「でもなんで?珍しいよね、ちゃんが着物なんて。」
「はい、沖田さんから女の子っぽい格好して今からファミレスに来いと連絡がありまして。」
「ファミレス?事件かな?」
「私も何か事件なのかと思って聞いたんですが、すぐに来いとだけしか言われなくて・・・。
それでとりあえず着物着てみたんですが、普段から着てないとダメですね、これで良いのかどうかわからない。」
「もーーのすごくいいから!大丈夫!その点はすごく大丈夫だよ!!」
山崎は手でグッジョブの形を作って太鼓判を押した。
それにしても、なんでファミレスに女装のを(女装じゃないけど)呼ぶんだ?
何か事件なら観察方をよこせばいいのに。
(あれ・・?さっきミツバさんに江戸を案内するって出てったよな?)
山崎はある一つの仮定が浮かんだ。
(さっき、ちゃんはミツバに会ってない。お互い初対面だ。と、なると・・・)
わかっちゃったかもしれない。やだ、俺、名観察じゃん!
答えがわかった山崎に、は「じゃあ行ってきます!」と言って屯所を出た。
(こんな面白いこと、後を追けないわけがないじゃないか!)
山崎も急いで屯所を出たが、もうの姿は無かった。
「あ、どこのファミレスなんだろ。」
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お久しぶりです。
新シリーズ始めました。ミツバ編です。
初めての原作沿いです。
また、長い目で見守ってもらえるとうれしいです。