新撰組時代、は高杉晋作とは一度も剣を交えることはなかった。
あまり京に潜伏していなかったことと、大政奉還前つまり戊辰戦争前に病死しているためである。
そのため、の高杉晋作に対する知識としては、『長州藩で奇兵隊を立ち上げた』ぐらいのものだった。
こちらの世界に来て、”高杉晋助”が”攘夷派”であるということは、すぐに理解できたが、
”過激なテロリスト”という肩書には結び付けられなかった。
長州藩の過激浪士と言って思い浮かぶのは、池田屋で打ち取った吉田稔麿、蛤御門の変で打ち取った久坂玄瑞であった。
だが、今ならすぐ理解できる。高杉晋作と高杉晋助は全くの別人で、
今目の前にいる、強烈な気配の持ち主の高杉晋助は、









完璧な”過激テロリスト”である。










act 20








は壁に寄り掛かって機会をうかがっていた。
傘で顔が隠れる一瞬を狙っていた。
傘によってこちら側が死角になったとき、そのタイミングで一気に懐まで走り込み、斬る。
正々堂々なんて必要ない。
だってこちらは真選組、むこうは攘夷浪士なのだから。
それに、



(あちらのほうが、私よりも剣の腕が一枚上手かもしれない。)



それは、高杉から感じる気配でがうすうす気づいていたことだ。
だからこそ、この作戦が一番安全策だという結論であった。
悠々と名を名乗り合って斬り合うなど、舞台の世界だ。


いつでも飛びこめるように、は視線を高杉の傘に向けたまま、自分の傘を地面に置こうとした。
そのとき





ピーピーピーピー






見廻りに出るときに携帯させられた無線が鳴った。



「ちっ・・・」



は瞬時に無線のスイッチを切ったがもう手遅れだ。
無線の存在完全に頭から抜けていた。





「・・・・誰だ。」





高杉の低い声が暗闇に響く。
その声は凍りつくように冷たい。
は諦めて、堂々と高杉の前に出た。




「真選組一番隊、。高杉晋助、あなたを捕縛します。」




高杉はニィーと笑った。




















片っぱしから見廻り班と無線のやり取りをしていた山野の手が止まった。
故意的に切られた無線。
何かある。
山野はすぐに無線番号と持ち主の名前をリストでチェックした。
無線番号を指で追うと、その先の名前が、







山野の顔がサっと青くなった。
彼女なら、高杉をこの雨の中見つけ出すかもしれない。
彼女なら、たった一人で戦うかもしれない。




「沖田隊長!!!!」















は何だか笑いたい気分だった。
高杉の殺気で背中がビリビリする。
それなのに、お互い傘を差して向き合っている。
とても滑稽な光景だ。
さっきの無線、どうせバレるなら切らずに応答しておけばよかった。




(かなりヤバいですよ、コレは。。。応援、来てくれるかな。)




一見悠長に構えているだが、内心は冷や汗が止まらない。




高杉の赤い傘が飛んだ。




と、同時にに向かって刀が下りてきた。





ザンッ




は咄嗟に差していた傘を自分の前に盾代わりにし、一撃を防いだ。
傘は縦に一直線に斬られ、真っ二つになった。



「ほう。」



と、薄く笑う高杉の手には刀が握られている。
速い。
目と目がカチ合う。




ダンっ




と地面を蹴り上げ、今度はが一気に間合いを詰めた。
山野との立ち会いで見せた、目にも映らないスピードに乗せて、抜刀術を繰り出した。




キィン




お互いの刀がぶつかり合う。ギリギリと火花が出そうなほど、刀が擦れる。
どうやら、高杉ものスピードにはついていけるようだ。
は高杉の目を見た。



(・・・楽しんでる?)



高杉のさっきまでは無かった目の輝きに、は刀にグっと力を込めて弾き、間合いを取った。
高杉は、首に手をあててコキコキと鳴らしながら口を開いた。



「お前が、真選組に新しく入ったっていう女隊士か。」
「あれ?知ってたんですか。それは光栄ですねぇ。」
「女の分際で幕府の犬たァモノ好きだな。」
「”分際”?女だてらって言ってください。それに、私には幕府の犬が性にあってるんですよ。」
「ッハ!変なヤツ。」
「その変なヤツに、あなたはこれから逮捕されるんですよ。高杉晋助サン。」




は、刀の刃先を高杉に向けて、不敵に笑った。
その姿を見て、一瞬目を見開いた高杉だったが、すぐにニヤっと笑い
「怖いねェ。」と、手を刀に添えた。


雨脚が酷くなった気がした。













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ついに高杉さまと対決ー!
ヒロイン意地張っちゃって、頑張れるのか!
次回もつたない戦闘シーンになりそうですが、お付き合いいただける方はぜひww