その日は雨が降っていた。
冷たい雨だった。
その声は雨よりも冷たくて、凍りつくようだった。
act 19
太陽が西に沈み、もうどのくらいの時間がたっただろうか。
今宵は生憎の雨で月が雲に隠れている。
時計の針は翌日を差しているような時刻だ。
今日は真選組にとって、特に一番隊にとって勝負の夜だった。
じっくりと時間をかけて監察に調べ上げさせた攘夷派浪士のアジトを一斉検挙したのだ。
血気盛んな一番隊だけに、今日の検挙は何の問題もなく終了した。
捕えた浪士達を次々と連行する中、を含めた数人の隊士は
逃げのびた浪士がいないか、手分けしてアジト周辺を見廻っていた。
の右手には傘が握られている。
(・・・・傘を差して見廻りなんて、わたし今隙だらけだなぁ。)
女の子が風邪を引くといけないと言って、山野に渡された傘を差しながらは見廻りを続けている。
目ぼしい浪士達は全員捕えられたので、そんなにこの見廻りに重要性は無かったのだ。
そのため、いつもは2人組で行う見廻りも、連行作業で人手を取られているため、
今日はそれぞれ1人ずつで見廻っていた。
のんびりと歩いていただったが、ふと路地で足を止めた。
(・・・・・・・・。)
壬生狼の勘が働いたのか、何となく路地の奥に違和感を感じたのだ。
は目を細めてよく見ようとしたが路地の奥は暗闇で何も見えない。
(怪しきは疑え、ですね。)
は、路地の奥に足を進めた。
「はーい。早く歩きなァ。チンタラ歩いてる足は斬り落とすぞー。」
間延びした声で世にも恐ろしいことを言いながら沖田は捕えた浪士をパトカーに詰め込んでいる。
作業が夜中まで続いて沖田の目が座ってきている。
正直怖い。
抜き身の刀を工事現場の誘導人形のようにブンブン振っている沖田に、捕えられた浪士達の顔は真っ青である。
土方はそんな沖田の様子にため息を吐いて注意した。
「おい、総悟。刀振り回して無抵抗の浪士を傷つけるんじゃねェぞ。」
鬼の副長も、今ばかりは怯えきった浪士達にとって仏に見える瞬間であった。
そんな土方のもとに、アジトの中で家宅捜索中だった山崎が飛んできた。
切迫した表情の山崎に土方と沖田の表情も変わる。
「山崎、どうした。」
山崎の手には、ノートのようなものが握られている。
「副長、見てください。このノートにアジトに尋ねてくる客人の予定がまとめてあったみたいんなんですが、
今日尋ねた人物の名前の中に・・・。」
覗き込んでいた土方と沖田の目つきが変わった。
暗闇の路地を進むは、気配を完全に消し、意識をピンと張り詰めて周りの様子を探りながら進んでいた。
ひとつ失敗だったのは、傘をたたみ忘れたことである。今は傘をたたむ音も自重したい場面だ。
(まったく、こんな失敗、1年前じゃありえませんね。)
完全に油断しきっていたための、初歩的なミス。は舌打ちをしたい気分だった。
傘をたたまずに、そのまま置いて行こうかとも考えたが、
(まぁ、この暗闇なら大丈夫ですかねぇ。)
は傘を差したまま進んだ。
進んでいくと、急に空気がピリッと張り詰めた。
は反射的に歩みを止めた。周りの気配に敏感になる。
さっきまでとは違う圧倒的な威圧感。
息が苦しくなる。
(あらら、超大物の予感ですよ。)
は壁に寄り添ってゆっくり進み始めた。
どうやらその人物は曲がり角の奥にいるらしい。
話し声は無い。一人か。
まだには気付いてはいないみたいだ。
は壁に背中を押しつけて、目線だけ壁から覗かせた。
その人物は真っ赤な派手な傘を差し、壁に寄り掛かっていた。
煙草を吹かしてるらしく、紫煙をくゆらせている。
傘も派手だが、着物も派手なものを着用していた。
赤が基調の豪華な花柄の着物。
(・・・おんな?)
は目を細めて見る。
いやちがう。
女にしては高すぎる身長、女物の着物から覗く足は骨ばっていて大きい。煙管を持つ手の血管。
すべてが男だ。
真っ赤な傘が上に上がった。顔が見える。
鋭い視線を持った片目。そしてもう片方には包帯。
高 杉 晋 助
ノートにあった名前で、事態は急変した。
アジトの周りが騒がしくなる。
土方の怒号が飛び交っている。
「一番隊!!総悟、集まったか!!?」
「護送班は全員戻ってきて揃いやした。」
「相手は高杉晋介だ!頭数は何人あっても足りねェくらいだ!!山崎、三番隊に応援を頼め!!」
「はいよ!」
山崎がパトカーの無線に駆けこむ。
土方が集まった一番隊護送班に向かって言った。
「高杉と出くわすことを考えると単独行動は危険だ!至急見廻り班と合流して少なくとも3人組であたりを見廻れ!」
「「「「はい!!!!!」」」」
高杉討伐となれば、俄然一番隊の気力も上がる。
隊士達の声が雨空にこだました。
「沖田隊長!今日は見廻り班全員が無線を持って行っています!!」
山野が沖田に向かって言った。
「よォし、無線で見廻り班の場所を確認後、それぞれ手分けして合流しろィ!」
沖田は一番隊に指示を出し、ふとの姿がここに無いことに気付いた。
(・・・あいつ、今日見廻り班か!!)
沖田は親指を噛んだ。
なんだか嫌な予感がした。
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はい、新連載スタートです♪
高杉さまの登場で今回はひさしぶりに戦う予感がしますねぇ。
え??ヒロインがだれとも絡んで無いって??
ウン。その点は否めないヨネーーー!!爆爆爆
今回も広い心でお付き合いくださいw