『うつるといけないから、今日はもう行きなさい。』



消えそうな笑顔が私の胸をさらに苦しくしてた。






act 17







沖田の熱は思ったよりもひどく、一晩では熱は下がらなかった。
ひどい咳と、熱からくる荒い呼吸に、は一睡もできず、
一晩中つきっきりで看病していたが、昼間は1番隊の隊務がある。
普段から1番隊の仕事は過酷だが、隊長が欠けているなら尚更大変なため、
も伍長の山野を助けなければならない。



「では私は見廻り行ってきますけど、沖田さん、ちゃんと寝てなきゃだめですよ?」
「・・・わかってらァ。」



ブスっと返事をする沖田に、は満足そうに口元を緩ませて、
「では行ってくるので!」と、部屋を出て行った。



「あいつ・・・寝てなくて大丈夫か?」



誰の所為で、という部分を完璧に抜かした沖田は、熱でボーっとする頭でのことを考えた。











「・・・ちゃん、すごい目の隈。大丈夫?」
「ぜーんぜん大丈夫です山野さん!今日は沖田さんの分まで働かないとなので気合い十分ですよ!」
「いやいや、気合いとかそういう気持ち的な部分でカバーできるものなの・・・?」



貫徹のお陰で、目の下に隈を作っているを見て、山野は本気で心配した。
しかし、ヒドい顔ながらも、テキパキといつもどおり仕事をこなしているので、
あまり、寝不足の部分は気にしないように山野は努めた。
しかし、



「なーんか、ちゃんまで倒れそうじゃん。」



ただの風邪の沖田に何故そこまで重看護をするのか山野は疑問だった。
風邪なんて、おとなしく寝てたら治るだろ?



ちゃんさぁ、どうしてそんなに沖田隊長の心配するの?」



山野の問いに、「え?」と、いうようには首を傾げた。
どうして?
はじっと考え込んだ。



「咳。」
「咳?」
「咳が出てるからです。」
「・・・は?」
「沖田さんが咳をしてるから、私こんなに看病してるのかな。」
「風邪なんだから、咳なんて当たり前でしょ?」
「・・・うん。そうですよね。あれ?おかしいなぁ。なんでだろう。」



沖田さんは沖田先生じゃないのに。




最後の言葉は口に出さずに、は「おかしいですね。」と、ヘラっと笑った。
の様子がいつもと違うことに山野は気付いていた。
さっきまでは、沖田が寝込んでいるから心配しておかしいのかと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。
何となくだけど、今日のは、



「目線が遠い?」
「は?」
「や、なんでもない。」












の言いつけどおりに、おとなしく寝ている沖田の部屋に近藤が入ってきた。



「よ!総悟。調子はどうだ?」
「特にどうってこと無いでさァ。今日だって普通に見廻りに行けやした。」
ちゃんに止められた?」
「アイツ、昨日からバァちゃんみたいなんでさァ。いちいちうるさい。」



口を尖らせて言う沖田に近藤は笑った。
今まで沖田に小言をいう存在なんていなかったのだから。



「・・・総悟さァ、咳はどうだ?」
「まだ出ますねィ。これが一番厄介でさァ。喉が痛てェ。」
「そうか。薬飲んで早く治せよ。」



「はい、龍角散。」と、近藤は沖田の枕元に龍角散の箱をドンと置いて部屋を出た。
沖田はそれを見て、目元をヒクつかせた。



「俺・・・コレ嫌い。」



近藤は廊下を歩きながら、顎に手を当てた。



(わざわざ、総悟に言うことないか。)








1番隊の仕事を終わらせたは、その足で沖田の部屋に向かった。
の襖を開ける音で、沖田は目を覚ました。



「あ、すみません。起しちゃいました?」
「いや、今日はずっと寝てたからいい。」



は、沖田の布団の横に座ると、手を沖田の額に当てた。
の手は冷たくて気持ちがいい。
沖田は目をつむった。



「良かった。熱は下がったみたいですね。」



の目に、先ほど近藤が持ってきた龍角散が映った。



「それ・・・。」
「あぁ、龍角散。咳に効くんだと。」
「土方さんが?」
「いや?近藤さんが。土方のヤローが風邪なんかに薬もって来ねェよ。」
「そう、ですか。」



沖田はの顔を見た。
徹夜して1日仕事して、疲れはピークに見えた。



、お前今日はもういいから、部屋で休め。」
「え?」
「昨日から看病してくれて疲れてるだろィ?風邪、うつるといけねェし、今日はもういいから。」




『労咳が、うつるといけないから、今日はもう行きなさい。』





「おい、。聞いてンのか?」
「へ?あ、はい!聞いてます。」
「だから、」
「うつりません!」
「・・・はぁ?」
「私うつらないので!うつらないから、うつらないから居てもいいですか?」



沖田は驚いた。
何を言ってるんだコイツ。ただの風邪に何故ここまで必死になるのか。



「おい、、」



ガラッ



と、襖が開いて近藤が入ってきた。



「近藤さん。」
「局長。」
「あ、ちゃんいたいた。疲れたでしょ。今日はもういいから部屋で休みなさい。」
「でも!」
「いーから休む!総悟は風邪だから、風邪!大丈夫だから。」
「・・・・・・・・はい。」



は、「では失礼します。」と、力無くとぼとぼと部屋から出て行った。
部屋に残った近藤は、フウと、息を吐いて座った。



「近藤さん、アイツどうかしたんですかィ?」
「あ、うん。まぁな。」








どうかしてる。沖田さんと沖田先生は全然違うのに。
わたし、なんて失礼なことをしたんだろう。
は自室に入らず、縁側に腰掛けて空を眺めた。





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重ねてます。ヒロイン、沖田を重ねてます。
それにしても、どうしてウチの近藤さんは察しが良いんだろうか(笑)