もう大丈夫。
君は君なんだから。
act 18
近藤はの部屋に向かうべく、廊下を歩いていた。
が出て行った後、沖田に何事かと聞かれたが、近藤は沈黙を保っていた。
自分の憶測が当っているという自信があったが、から直接話を聞きたいと思ったのだ。
近藤は廊下に小さな人影を発見した。
が縁側に足をぶらぶらさせながら座っている。
視線が遠い。
「ちゃん。やっぱり休んで無かった。」
「・・・・近藤さん。」
近藤は努めて軽い口調で声をかけると、の隣に「よっこいしょ」と座った。
「そんな掛け声で、おじさんってまたからかわれますよ〜。」と、
近藤を茶化す声もどことなくいつもと違って元気が無いように思える。
近藤はに優しく笑いかけて、話題を切り出した。
こういう話は変に回り道せずに、直球勝負の方が良いというのが近藤の持論だ。
「ちゃん、やっぱり総悟の咳が気になる?」
「え?」
「ちゃん初めてここに来た時に言ってたでしょ。上司の沖田総司が肺結核で亡くなったって。」
「・・・はい。」
「別人といっても、同じ役職、名前も似てる。ちゃんが総悟と沖田総司サンを重ねちゃっても無理ないかなって。」
は目を見開いた。
全く、真選組入隊の時といい、今回といい、近藤はどこまでもお見通しなのだ。
ずば抜けた人間観察能力。近藤の魅力はここにあるといって間違いない。
はゆっくりと口を開いた。
「わかってるんです。沖田さんがただの風邪ってことも、沖田先生とは違うってことも。
沖田さんと沖田先生は顔も性格も全然違う、全くの別人なのに。何でか、気になって。」
は胸の位置で手のひらをギュっと握った。
「苦しくなるんです。沖田さんが咳をすると。辛そうだった沖田先生の顔が脳裏によぎって、しかたがないんです。」
「・・・・。」
「ほら、ここは役職とか皆さんの名前とか、新撰組とあまりにも似てるから、沖田さんも先生の病気になっちゃうんじゃないかって。」
「ちゃん・・・・。」
は空を見上げた。良く晴れていて星がよく見える。
「バカですよね。すいません。」
「ほんと、バカでィ。」
聞きなれた特徴的な語尾の声に、と近藤が振り向いた。
廊下に寝巻に上着を羽織った状態の沖田が立っていた。
「総悟・・・。」
「沖田さん・・・。」
だけでなく、近藤の様子もおかしかったため、沖田は後をつけていたのだ。
が沖田に変にやさしかったのは、沖田総司と重ねていたからだったなんて、
沖田にとっては不愉快極まりなりことであったが、真相がわかって少しスッキリした。
「まだ寝てないと。」と言いたそうな顔のに、「治った。」っとシレっと言い放ち
沖田は近藤と同じようにの隣に腰かけた。
そして、の顔をジッと覗き込むように見つめると、
「ゴホゴホゴホゴホゴホゴホコホンコホン!」
わざと大袈裟に咳をして見せた。
「お、沖田さん!!?」
沖田の突然の行動には驚いて、声が上ずった。
何してるんだこの人!
の驚いた顔に沖田はプッと噴き出して笑った。
そしての目を見つめて言った。
「俺は、結核じゃねェよ。これからもならねェ。」
「沖田さん。」
「それに・・・」
髪と同じ吸込まれそうな栗色の瞳に見つめられては沖田から目が離せない。
沖田は両手での頬を包んだ。
「部下残して先に死ねねェだろィ?」
の目から大粒の涙が流れた。
近藤はの涙を見てあたふたする。
「ちょ、ちゃん!!?大丈夫??」
「えー。近藤さん、ここは気を利かせて2人きりにするとこだったんじゃねェんですかィ?」
「えぇ!?俺KY!?近藤(K)勲(I)と書いてKIだけどKY!?」
「今日から近藤(K)やさみ(Y)に改名してくだせェ。」
「何いってんのぉ!?」
「よっ!やさみ局長!」
いつものやり取りが始まった2人を見て、は涙を拭きながら笑った。
の笑顔を見て近藤と沖田も笑顔になる。
「すみませんでした。沖田さんは沖田さんです。他の誰でもないのに。」
改めて沖田に謝るに、沖田はの頭をポンポンと叩いた。
「まぁ、良いんじゃねェの?面白いモンも見れたし。」
「お・・・おも!?」
「さ、の悩みも解決ってことで、部屋に帰ろうかねィ。」
沖田が腰をあげた。それにつられるように近藤も立ち上がった。
沖田は先に自室に向かって歩き始めた。
近藤も「ちゃんも早く休むんだぞ。」と、近藤らしい言葉をかけ、沖田の後に続いた。
「はい!ありがとうございました。近藤さん、沖田さんも。」
沖田さんは沖田先生とは違う。
それに、いつまでも過去に縛られていてはいけない。
は胸につかえていたものが、スッと取れた気がした。
「ねぇ近藤さん。」
「何だ?総悟。」
「ライバルがもう死んでるってェのはフェアじゃないと思いませんかィ?」
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おまたせしました!
”かさなる”終了です♪
総悟と総司、こんがらがるよぉ〜(笑)
これでヒロインは過去の山の一つを越えられました。