翌日、
昨日はとんだトラブルのせいで結局マヨネーズを購入できなかったため、
は再び”土方さんのマヨネーズ10本”のメモ用紙を持って大江戸マートに出向いた。
act 11
今日は何の問題もなく、マヨネーズ10本を無事購入できたはビニール袋にマヨネーズを
パンパンに詰めて、江戸の町を歩いていた。
今日は監視の期限の3日目だ。
(密偵の容疑が晴れたら、どうしようかなぁ。)
今、には密偵の容疑がかかっているからこそ、真選組に居候させてもらえているのだ。
密偵容疑が晴れたら、真選組にいる意味はなくなる。
この3日間で、真選組がこの江戸の町でどんな役割をしているのか理解したつもりだ。
天人に見方することを良い目で見ない人達も多いが、真選組は攘夷志士のテロから江戸の町の人々の平和を守っていることを知った。
真選組という組織は新撰組柄のの性分に、とても合っているのだ。
できることならばこのまま真選組隊士として努めたいというのがの本音だ。
(この世界に来てしまったのも、新撰組を失った私に真選組を守れということかもしれない。)
この3日間では、自分がこの世界に来た理由をそう結論付けていた。
しかし、新撰組同様、真選組もまた女人禁制なのも確かだ。
が真選組の隊士となることは難しいだろう。
真選組を追い出されたら、は行くところが本当にない。
助けてくれた真選組の皆には申し訳ないが、
(しょーがない。追い出されたら死に直そう。)
もともと死ぬつもりだった身だ。
それが3日間延びたとしても、わざわざこの世界で新しく仕事を見つけて生きようという気にはなれなかった。
今度は確実に死ぬ方法を選ばないと。
(でも、やっぱり切腹はいやだなー。)
人様に私の腸はさらしたくない。
どうしたものかと、薄く笑ってマヨネーズの入ったビニール袋をブンブンふりながらは屯所を目指した。
その夜、
近藤の自室に、土方と監視の結果を報告するために山崎が来ていた。
「3日間の監視の結果、は怪しい点等一切見受けられず、高い確率でスパイでは無いと判断しました。」
がスパイではないという根拠をいくつか山崎が挙げ、近藤と土方はその報告を黙って聞いていた。
山崎が報告をし終わると、近藤はうんうんと頷いて山崎を労った。
「山崎、3日間ご苦労だったな。トシ、これでちゃんがスパイじゃないって分かったね。」
「フン、まぁな。山崎、ご苦労。下がっていいぞ。」
「はい。」
土方は山崎を部屋から下がらせると、煙草に火を点けて本題だという風に近藤に今一度向き合った。
「で、どうする。」
「え?どうするって?」
これ以上何かあるっけ?という顔をした近藤に、土方はズルっとこけた。
何も分かっちゃいねぇと、土方は「はぁ。」とため息をついて言った。
「の処遇に決まってんだろうが!」
「え?俺、これでちゃん真選組の隊士になれるなって思ってたんだけど。」
「女が真選組隊士って前例が無ェだろうがよ。」
「じゃあ、トシはどうしたら良いと思う?」
「江戸で他の仕事を見つけてやるとか、色々あるんじゃねェのか?」
土方の意見を聞いて、今度は近藤が、分かってないねェと、ため息をついて言った。
「そんなことしたら、ちゃんまた死んじゃうよ?」
近藤の言葉に土方は「何故が死ぬ?」といった表情で、灰皿に煙草を押しつけた。
「トシもちゃんがここに来た理由初日に聞いてたでしょ。彼女は”新撰組”が無くなっちゃったから崖から飛び降りた。
でも死ねずに、どうやってか”真選組”のある世界に来てしまった。」
「ああ。」
「トシ気付かなかった?ちゃん、”屯所”とか”見廻り”とか聞くとね、懐かしそうな、それでいてすっごい寂しそうな顔するんだよ。」
「…。」
「俺、分かっちゃったんだよね。今のちゃんの生を繋いでいるのは”シンセングミ”っていう言葉だけなんだ。」
「それを今アイツから奪ったら、また自殺する…ってか。」
「そういうこと。」
土方は面倒臭そうに頭を?いて言った。
「とりあえず、をここに呼んでから話をしようぜ。」
近藤と土方に呼ばれたは、すぐに近藤の自室に来た。
近藤は、に自分の前に座るように促すと、話を始めた。
「えーっと、山崎の報告の結果、ちゃんのスパイ容疑は晴れました。良かったね。」
近藤の文章を読むような話し方に、は少し笑いながら「はい。」と答えた。
「ほらよ。初日にお前から取りあげた刀と隊服だ。」
そう言って土方は、に刀と新撰組の浅葱色の隊服を返した。
たった3日ぶりだが、にはその浅葱色が随分懐かしい色に思えた。
「ちゃんはこれで自由の身だ。真選組に身柄を拘束される必要は無くなった訳だ。」
「…はい。」
「ちゃん、真選組を出て、これから君はどうする?」
これからどうする?
やっぱり、真選組には置いてもらえないんだ。
は視線を近藤から落とした。
(死に直しますなんて、近藤さんに言えない…。)
3日間真選組を見てきて分かる。
きっと、近藤さんは簡単に命を絶つことを良しとしない人だ。
本音を言ったら絶対に傷ついてしまう。
どうしたらいい?
仕事を見つけてこの世界で生きていくと言っておけば良いんだろうか…。
が黙って下を向いていると、近藤は土方を一瞥して「ほらね。」という風に苦笑した。
そして、に優しく言った。
「ちゃんさえ良ければ、真選組に来ないか?」
はバッと近藤の顔を見た。
この3日間、元気で活発な少女だったの大きな黒目は不安げに小刻みに動き、
この娘こんな表情もするのかと土方は少し驚いた。
近藤は、を見て優しく頷いて続けた。
「ちゃん、俺ァね、君が君の世界でどんなに辛い目に合ったのか分からんが、もう少し、死ぬのを待ってみたらどうだ?」
「…!」
私が死ぬ気だったの近藤さんにバレている…。
は近藤の目を見つめた。
「ここはちゃんの新撰組とは大きく違うかもしれんが、”シンセングミ”同士、何かの縁だ。」
「…。」
「ちゃんは周りを元気にする素質があるんだなァ。それをここで活かしてみんか?」
「…近藤さん。」
泣きそうに潤んだ瞳で笑うの頭を近藤はよしよしと撫でた。
「ね、トシ。ちゃん真選組に入れて良いよね?」
「しょうがねェなァ。」
降参だという風に両手を挙げた土方に、は嬉しくて顔をくしゃくしゃにして笑った。
土方は人差指を立てると、の顔にビシっと指して言った。
「ただし、隊士にするには条件がある!女が真選組隊士なんて前例が無ェ。
明日、俺が指定する入隊試験を受けろ。それに合格したら、お前はめでたく真選組隊士だ。
もし不合格だった場合は、真選組付きの女中になってもらう。いいな。」
「はい!」
近藤の部屋から出ては自室に戻るために廊下を歩いていると、
星空がきれいなことに気付いた。
(沖田先生、新撰組の皆。私ここで頑張ってみます。だから、そっちに行くのはもう少し待ってて。)
空を見上げては微笑むと、部屋に戻った。
NEXT→
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ヒロインの心見透かすとか近藤さんエスパーか!
エスパー近藤か!
次回はまたまたヒロイン戦闘モードです。