私と銀髪のお侍さんの出会いは非常に面白い状況でした。
でも今考えると、あの時あなたに話しかけたのは、
あなたの瞳の奥にあるものに自然と共通点を感じたからだと思うんです。
ねぇ?銀さん。
act 9
ドラッグストア”スーパードラッグ”の店内は平日の昼間ということもあって客は数人しかいなかった。
少ない客の一人である坂田銀時は蒼白な顔色をして目的の品を探していた。
正露丸。
そう。銀時は今、おなかピーピー状態なのである。
事の始まりは、冷蔵庫の奥に隠れていたシュークリームを見つけたことに始まる。
賞味期限は1日過ぎてたけれど、賞味期限っつーもんはおいしく食べられるという指標なだけであって、
1日ぐらい過ぎても、どうってことはない。MOTTAINAIの精神だ。と銀時は理屈付けて、
神楽も新八も出かけていることを良いことに、一人でおいしくいただいたのだ。
少しクリームの味に違和感を感じたが、糖分不足の体にストップが効かず、全部食べてしまった。
そして、体調がおかしくなって気付いたのだ。
賞味期限が1日ではなく、1年と1日、つまり366日切れていたということに。
下痢止めも丁度切らすという最悪の事態に銀時は、下る腹を押さえつつ、
この”スーパードラッグ”に命からがら辿り着いていたのだ。
そして、下痢止めコーナーで銀時はついに正露丸を発見した。
黄金に輝く正露丸のパッケージに手を伸ばそうとした瞬間、突然銀時の目の前に少女が立ちふさがった。
大きな漆黒の瞳に、それと同じ色の肩下まで伸びたストレートの髪をした少女に銀時は一瞬目を奪われたが、
今は下痢の方が大事だ。
「おい嬢ちゃん、どいてくんない?」と言いかけた銀時に、少女はチューブの塗り薬を見せ、衝撃の発言をした。
「すいません!アロンアルファってマヨネーズですか?!」
一瞬時が止まった。
「いやいやいやいやいや、お嬢ちゃんアロンアルファはアロンアルファだから!マヨネーズって、えぇ!?
アロンアルファをサラダにかけたら大変なことになっちゃうからね!?」
度を超えた天然少女の突然の出現に混乱する銀時にはさらなる爆弾を落とした。
「じゃあ、えっとこれ、”ハンドクリーム”ってマヨネーズですか?」
「キャー!ちょっと俺、手に負えない!ツッコミきれない!!新八を!だれかウチのメガネ呼んできてー!!!」
「じゃあ”ムヒ”って「マヨネーズじゃねぇよ!!!」
「何!?チューブというパーツが君にマヨネーズだと錯覚させるの!?」
「私結構探したんですけど、マヨネーズって書いてある品物が無くて困ってるんです。」
「いやいやいや、ここドラッグストアじゃん。マヨネーズは売ってないでしょ。スーパー行かなきゃ。」
「え?でも看板にはスーパーって書いてありますよ?」
「それ店の名前だから!何?君、天人?地球来たばっか?」
「…まぁ、似たようなもんですけど。」
「スーパーっつーのはスーパーマーケットっつって、3軒横の”大江戸ストア”がそうだから、そっち行きな。」
「そうなんですか!ありがとうございます!お侍さん!」
ふわっと花のように笑って、ぱたぱたと入口の方に向かうを見て、銀時の頬が緩んだ。
(可愛らしい天人だねぇ。)
ウチの神楽ちゃんもあんな可憐なお嬢さんに育ってくんねェかな。いや、なんねェだろうな。
なんて、万事屋の怪獣娘の将来を案じたのも束の間、ぐるるるるると銀時の腸が鳴った。
銀時VS下痢。第2ラウンド突入である。
「やべェやべェ!早いとこ正露丸買ってウチで寝よ。」
銀時は正露丸を棚から取り、何とも言えない下痢時の前傾姿勢でレジに向かった。
その時、レジの方向から男達の怒鳴り声と店員の悲鳴が聞こえた。
「おい!金を出せ!野郎ども、客は人質だ。全員縄で縛れ!!」
「「おう!!」」
えぇえぇぇ。
今ぁぁ!?俺が下痢の今ぁぁ!?
銀時はあっさり敵に捕まった。
縄で縛られた人質全員がレジ前に集められた。
どうやら強盗は3人組らしい。リーダー格の男が金と薬を鞄に詰め、1人がドアを見張り、1人が人質を見張っている。
人質は全員で5人。
店長らしきおじさんと、アルバイトの女の子、主婦のおばさん、銀時、そしてである。
「あらら、嬢ちゃんも捕まっちゃったの。」
「はい。店を出ようとしたところで丁度捕まってしまいました。」
店長は強盗達に言われた通り金庫から金を渡し、
アルバイトの女の子とおばさんは恐怖のあまり、震えて固まっていた。
そんな横で、と銀時は世間話をするように会話を始めた。
「この状況、押し込み強盗と認識して良いんですよね?」
押し込み強盗とは、大店の商家などに押し入る強盗である。店の従業員を縄で縛り上げ、蔵にある金を奪うのだ。
も新撰組時代に何度か被害にあった店を見たことがある。
「まァ、そうだなァ。どうせ人質とって強盗するなら銀行でやれっつーんだ。」
「なんでよりによってドラッグストアなんだよォ。金品なんてそんなに無いだろォ」と愚痴った銀時の腸が、またしてもぐるるると鳴った。
蒼白だった顔がさらに蒼白になり、銀時は腹を抱えて悶えた。
「お侍さん!大丈夫ですか!?顔が真っ青です。差し込みですか!?」
「差し込みってお前…、バァちゃんか。」
ひと昔前の腹痛の表現をするに、銀時は苦しみながら懸命にツッコむ。
「では早く印籠から薬を。」
「印籠に薬なんて何時の時代だよ。お前バァちゃんか。」
「厠に行けたら良いんですけどねぇ、この状況では何とも。」
「厠ってお前…、若いお嬢さんならお手洗いって言ってください!って、アレ?俺正露丸持ってんじゃん。」
銀時の手には購入予定だった正露丸があった。
あぁ神よ!神はまだ俺を見捨ててはいなかった!
銀時は正露丸の箱を開けて錠剤を2粒出した。だが、これを飲むのに水がいる。
「強盗のお兄さん!こちらのお侍さんにお水を!」
は人質を見張ってた強盗の1人に言った。
「あぁん?『こちらのお客さんにカクテルを。』ってノリで言うんじゃねぇよ。誰が人質に水なんて…」
見張り役の男が銀時を見ると、正露丸を掲げながら蒼白な顔色で悶えている。
「おう!今すぐ水持ってきてやるから頑張れよ!」
そう言って、男はすぐに水を銀時に持ってきた。
銀時は弱弱しい声で「強盗さん、アンタ良いヤツだな。」と言うと正露丸をゴクリと飲んだ。
これで一安心だ。正露丸は即効性が売りだから、もうしばらくすれば効いてくるだろう。
薬を飲んだという安心感から銀時が落ち着きを取り戻すと、外からパトカーの音が聞こえてきた。
『えー、犯人たちに告ぐ。人質を解放して今すぐ出て来いやァ、コノヤロー!』
真選組到着である。
豪華にも副長直々のスピーカー放送に、隣には一番隊隊長のバズーカ付きだ。
「おい、なんでこんなに早くサツが来るんだよ。しかも真選組!」
「おいコラ店長、テメェ通報しただろ!」
「ひぃぃぃ、私は何もしてませんよう!」
確かに。外のから騒ぎを嗅ぎつけて出動にたにしては到着が早すぎる。
強盗達はこの早すぎる警察の到着に動揺が隠せない様子で店長に詰め寄った。
(あぁ、山崎さんかな。)
は山崎が真選組に通報したと気付いた。
何しろ、はスパイ容疑で常に山崎の監視下にあるのだ。
は今日は全然山崎の気配に気がつかなかったが、きっと監視されていたのだろう。
「しかたねェ!俺達も攘夷志士のはしくれだ。立てこもって長期戦だ。」
「「おう!」」
「なんだァ?こいつら攘夷浪士かよ。ややこしいなァ。」
強盗達が攘夷浪士と聞いて銀時が面倒臭そうに呟いた。
はフムフムと状況を見ていた。真選組と攘夷浪士、こちらの世界でもこの2つの関係性は同じらしい。
そして、真選組の登場が強盗犯達の攘夷志士魂に火を付けてしまったようだ。
ドラッグストア”スーパードラッグ”強盗立てこもり事件、長期戦突入。
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銀さん、おなかピーピーで初登場です。
ヒロイン、無知って破壊力ありますね。
アレ!?立てこもり事件が1話で終わんねぇ!