初めて出た江戸の町は、おとぎ話みたいでわくわくしたことを覚えている。
act 8
山崎から借りた日本史の教科書を読んで、は発見した。
”黒船でペルリが来る以前と、天人が江戸に来る以前の歴史が全く一緒”
なのである。
源平の合戦やら、南北朝の戦い、戦国時代の武将、さらには江戸幕府が出した条例まで、
年号や人物名など全てが同じであった。
黒船と天人、来るものが違うとこうも世界は変わってしまうものなのかと、は感心したほどだ。
しかし、これはこの世界の歴史を一から学ばなくても良いということで、
にとってラッキーな事態でもあった。
(天人が来てからの20年分の知識を入れるだけで良いってことだもんね。)
その日の夜に、は近藤と土方に、この事実とペルリが来航した後の歴史について詳しく話した。
そして翌日、は近藤に屯所の外に出る許可をもらった。
「それでは近藤さん、行って参ります。」
「おぅ。ちゃん気を付けて。」
近藤は、珍しそうに街を見ながら歩いていくの背中を微笑ましく見送った。
(着物を着たら、どこから見ても町娘って感じだよなぁ。)
今、は若葉色の着物を着ている。
は袴でこの世界に来たため、着物を持っていなかったのだが、
せっかく街に出るのだからと、近藤が気を利かせて監察の変装用の衣装から1着貸したのだ。
(でも、ちょっと挙動不審?)
珍しすぎてキョロキョロと周りを見ながら歩く様子は、かなり挙動不審である。
でも、挙動不審なところがかえって、
「スパイではないって思えない?トシ。」
近藤は屯所の柱の陰から鋭い視線を送っていた土方に話しかけた。
土方は「気づいてたのかよ。」と門の前にいる近藤の傍に歩いてきた。
「トシ聞いた?ちゃん談話室のテレビ壊しちゃったんだって。」
「ああ、山崎から聞いた。」
「テレビって天人から伝わったものだよね。あと、マヨネーズも携帯電話も。」
「…近藤さん、何が言いたい。」
「昨日ちゃんが俺らに報告したことを信じて良いんじゃないかってことだ。」
『どうやら私の世界とこの世界は、ペルリという異国人が来る以前と天人が来る以前までの歴史が同じみたいなんです。
ただ、ペルリが来たのは私の世界の約15年前、山崎さんにお借りした本を読んだところ、天人が来たのは
この世界の20年前ということなので、5年の時差はあるんですけど。』
「ハッ、全部演技かもしれねェだろうが。」
「いや、演技ではあんなに細かく自分の世界のことは説明できんよ。」
「アイツがスパイなら、この外出の期に必ず仲間とコンタクトを取るはずだ。山崎!しっかり見張っとけよ。」
土方の声に、「はいよ。」と山崎が姿を見せずに返事をし、気配を消した。
フンフフンフフーンと、即興の鼻歌を歌いながらは江戸の街を歩いていた。
一見、の世界と同じような見慣れた街並みだが、
よく見ると、看板の文字が光っていたり、扉が自動で開いたりと、いろいろ違っている。
そして、何よりものテンションを上げさせたのは、天人の姿だ。
(わぁ。犬がしゃべってる!犬人が鳥人としゃべってる!)
人間以外の生き物が歩いたり会話をしていることが不思議でならなかった。
犬がしゃべって、鳥がしゃべって、
(犬、キジ…。桃太郎みたい!サルはしゃべるかな?)
まるでおとぎ話の中に来たような気持ちで、は天人を通じてあらためて異世界に来たことを実感した。
しばらく、は浮かれながら街を歩いていたが、はっと、思い出して懐からメモを取り出した。
メモには
”土方さんのマヨネーズ十本”
と、大きく書かれている。
これは、
『せっかく屯所の外に出るんだから、ちゃんにお使いたのんじゃおうかなぁ。』
と、近藤に頼まれたお使いである。
買い物をすれば、すぐに街に慣れるであろうという近藤なりの気遣いだ。
だが、外出許可が単に”この世界に早く慣れるため”という理由だけでないことには気付いていた。
(…密偵の仲間と接触させようと私を泳がせるため。)
の経験上、潜入などは一人の密偵が行うが、それで得た情報をやり取りするために、
数人の密偵が情報配達役として潜入している密偵の周りにつく。
その現場を押さえて、の密偵容疑を確定しようとしているのだ。
前者は近藤の提案、後者は土方の策略、それが合わさって今日の外出許可になったわけである。
(うーん、何というか、”新撰組”的。)
しかし、どんなに疑いをかけられたところで、は無罪潔白なわけなので、
は近藤のお使いを済まそうと、気楽に店を探しだした。
近藤によると、マヨネーズは”スーパー”というところに売っているらしい。
は「スーパースーパー」と呟きながらスーパーの看板を探した。
どうやらこの辺は商店街のようで、いろいろな店が立ち並んでいる。
目の前に食材を多く売っているであろう店があり、は看板を見た。
「”大江戸ストア”。ちがうなぁ。」
は近藤に”スーパー”とだけしか聞いていなかったため、
看板に”大江戸ストア”とだけしか書いていないスーパーマーケットを通り過ぎた。
「あ!スーパーあった!」
は大江戸ストアの3軒先の看板に大きく”スーパードラッグ”と書かれている店を見つけた。
目的の店をすぐに見つけられたことには喜んで、ドラッグストア”スーパードッラグ”に入って行った。
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やっと2日目に入ったかと思いきや、
8話目短っ!!!
すいません次の話が、話しの頭からやりたいなと思って配分したらこうなりました。
次回はついに主人公の天パのあの人が出てきます。