「えええぇぇぇ!!?ちょっとちゃん、何してんのォォ!!?」



宴会の次の朝、ある隊士の悲痛な叫びが屯所内に響いた。





act.6




一番隊伍長の山野は、朝早くから見廻りの準備をしていた。
今日は見廻りの当番が一番隊なのである。
昨日は異世界から来た女の子の歓迎会で夜遅くまで宴会が続いたため、
山野は、隊長の沖田総悟が今日の見廻りをサボることを確信していたのである。



(まぁ、沖田隊長が見廻りサボるのは、いつものことだけど。)



山野は、本来隊長が行うはずの見廻りの地域と隊内の班分けを手慣れた様子で行っていく。
最後の班を割り振ると、山野はペンを置いた。思っていたよりも早く準備が済んでしまった。
あまりにも沖田が見廻りをサボるので、他の平隊士にはないスキルが身についてしまっているのだ。
朝食の時間までまだ結構あるので、山野は談話室で休憩することにした。
今なら隊士たちはまだ寝ているので、談話室のフカフカなソファーは山野のものだ。



(そういえば、あの子、新撰組って言ってたけど、剣の腕は立つのかな?)



あんな華奢で可愛らしい女の子が剣を握るなんて想像がつかなかった。
山野自身、地元の道場では「そんな華奢な腕で剣が振れるのか」と、からかわれた思い出がある。
まぁその時は、道場の門下生全員を一瞬で倒してやったのだけれど。
そんなことを考えながら、山野が談話室に入ると、
今まさに山野が考えていた女の子、が背を向けて座っていた。
そして、の前には、



分 解 さ れ た テ レ ビ





「えええぇぇぇ!!?ちょっとちゃん、何してんのォォ!!?」





という訳で今にいたる。
はというと、



「あ、山野さん。おはようございます。」



と、ぺこりと頭を下げて挨拶をすると、「あれ?逃げちゃったのかなぁ?」なんて意味不明なことを言いながら、
分解されたテレビの部品の山をガサゴソと何か探している。
山野は隊長でもない自分の名前をが覚えていたことに内心驚きながらも、昨日山崎が言っていたことを思い出した。



『いやぁ、ちゃん携帯電話知らなかったんだよー。俺、本当に異世界から来たって信じちゃったなぁ。』



山野は、真ん中に穴の開いたテレビの画面の部分を発見した。その穴はまるでパンチして開けたような感じだ。
何となくそうじゃないかと思っていたことが確信に変わった。
実際にそんな人がいるということに、山野は可笑しくなった。



(何というか、かわいいなぁ。)



は、くすくす笑う山野の方を見て、大真面目に言った。




「すいません!この中にいた小人さんたちを逃がしてしまいました!!」










やっぱり思ったとおりだ。
その言葉で、山野のくすくす笑いが腹を抱えての大笑いに変わった。



要訳するとこうである。
朝早く目覚めてしまったは、どうしようか悩んだ末に談話室に来た。
談話室にはソファと見慣れないカラクリの箱(テレビだ)があり、いろいろ触っているうちにテレビの電源がオンになってしまったのだ。
テレビでは朝のニュースがやっており、は小人がテレビの中に入っていると勘違いし、
が話しかけても小人は何の反応も示さないため、画面を割って直接話しをしようと思った。
そして、テレビを壊した。



「もう!そんなに笑わないでくださいよ。小人がアマントだと思ったんです。」



テレビというものを山野が大笑いしてヒーヒー言いながら説明すると、は顔を真っ赤にしながら釈明した。
真選組のテレビは経費削減のため、まだブラウン管のテレビを使っていた。
そのガラスでできたテレビ画面を拳で叩き割るとは、普通の女の子ではまず考えられない。
やはり新撰組所以だからなのだろうか。
一所懸命バラバラになったテレビを片づけているを見て、山野は先ほど抱いた疑問をに尋ねてみることにした。



「君は新撰組ではさ、どんな役職についてたの?」

「山野さんと一緒ですよ。」

「伍長?」

「はい。一番隊伍長でした。」

「へー。驚いたな。女の子なのに。」



これは驚いた。てっきり女だから監察かと思っていただけに、隊に所属していたとは。しかも伍長。
女が上に立つなんて、男組織の真選組では考えられなかった。
は、その反応を予想していた様で、苦笑しながら言った。



「女だと皆ついてきませんからね、男装してたんですよ。」

「男装!?」

「はい。意外と気づかれないものですよ?もちろん隊長格の人達は全員私が女だって知っていましたけど。」



そう言って、は肩下まである黒いストレートの髪を一纏めにして高い位置に持ってきた。
なるほど、髪をおろしている時よりも中性的なイメージになる。
白い肌に朱色の唇が目立つ、美青年剣士という感じだ。



「うわぁ。こりゃちゃんモテたでしょ。女の子に。」

「まあ、小間物屋のお小夜ちゃんは私に御熱心でしたね。」

「隅に置けないねぇ。」

「そういう山野さんだって、その涼しげな目元。モテるでしょ。女の子に。」

「まあ、小間物屋のお美代ちゃんは俺に御熱心ですけどね。」


「「ぷっ」」



二人で笑っていると、はふと気付いた。



「そういえば、昨日は宴会だったのに、山野さん早いですね。」

「あぁ、今日は一番隊が見廻りだからね。隊内の班分けの作業をしてたんだ。」

「へー。こっちの伍長さんは大変なんですね。」

「いやぁ、これは一番隊の伍長だけの仕事。」

「?」

「沖田隊長がサボってるんだよ。」

「サボ…「おい山野、てめェ何自分とこの隊長の株落としてるんでェ」

「ってぇー!沖田隊長!!」



ゴツンといつの間にか現れた沖田が山野の頭にげんこつを落とした。
は、あまりの出来事に目を見張った。
隊長が伍長にげんこつ…!!!
沖田は分解されたテレビを見て、「あーあー何やってるんでィ。アナログ放送に喝でも入れたか。」などと呟いての方を見た。



「よう、。早いねィ。」

「おはようございます沖田さん。見廻りなんですね。頑張ってください!」



はぺこりと沖田に頭を下げて挨拶したあと、頭を押さえて蹲っている山野の方を心配そうに見た。
…かなり痛そうだ。



「あぁ、いいんだ。コイツ山崎2号だから。ただへタレ度がザキの10分の1だから、やけにモテるところがムカツクけどな。」

「は…はあ。」

「よし!見廻りだ。立てィ山野。行くぞ。」

「はい。じゃあまたね、ちゃん。」

「はい!山野さん気をつけていってらっしゃい。沖田さんも。」



がにっこり笑って手を振ると、沖田は背を向けて、山野は引きずられながら手を振り返して出て行った。



(…見廻りか。)



懐かしい響きだった。


!見廻り行きますよ!ほら立って立って!』
『沖田先生ー。揺らさないでください頭に響くー。』
『飲みすぎは自業自得!出発しますよ!』
『あい。待ってくださいー。』




そういえば、ヘタレって何だろう…。









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オリキャラを登場させてみました。
山野です。よろしくお願いします。
山野は新撰組隊士『山野八十八(やそはち)』から取っています。
なので、当然、ヒロインも覚えていたわけなのです。
じゃあ、山野の名前は八十七にしようかな。やそひち。