「残念だったなァ。俺が本当の真選組だぜィ。」
なんだって!?
今目の前のこの青年、自分のこと新撰組と名乗った!
ありえないでしょ。
だって、新撰組はもう…
act.3
は混乱していた。
新撰組と名乗った青年は(正確には真選組と名乗ったのだが、の頭の中では新撰組と変換されていた。)、
嘘をついているようには見えないし、
なによりも、この組織には懐かしすぎる人の名前が多すぎる。
というか、目が覚めてから懐かしい名前しか聞いてない。
ありえない!とは、言えない気がしてきたのだ。
は思い切って沖田に尋ねた。
「沖田さん、新しいに選ぶ組と書いて、新撰組?」
「違いまさァ。真実に選ぶ組と書いて、真選組。」
やっぱり、微妙に違った!!!!!!
そうなのだ。山崎にしろ沖田にしろ、みんな名前が微妙に違うのだ。
ここは”新撰組”ではなく、”真選組”。
でもまさか、新撰組を目の敵にしていた薩摩や長州が、
江戸に、字は違えど真選組などという組織が存在することを許すのだろうか…?
は再び頭を抱えて唸り始めると、襖が開いて、2人の男が部屋に入ってきた。
「なんだ、土方か。ありゃ?近藤さんも来たんですかィ?」
「あぁ。ずっと目ェ覚まさなかったから俺も心配だってなァ。元気そうじゃないか!」
「呼び捨てにすんじゃねェよ。総悟、お前余計なことコイツにしゃべって無ェだろうな。」
沖田が話す様子から、
背が高く、がっしりとした体格で、ニッと人の良さそうな笑みをしているのが近藤で、
近藤までは体格は良くなく、背の高い男前だが人相の悪そうな顔をしているのが土方であると、は判断していた。
あぁ、なんか "新撰組" の近藤と土方にどことなく近いような気がする。
「余計なことなんて話してないですぜィ。なぁ、。」
「へ?あ、はい。」
「じゃあ、俺ァちょっくら昼寝でもしてきまさァ。」
「サボってないで見回り行け!見回り!!」
土方が沖田に怒鳴ると、沖田はへーい。とゆるい返事をして部屋を出て行った。
(…名前、呼ばれた。)
山崎はすぐに "ちゃん" と呼んだが、沖田はずっと "アンタ " だったので、
は、沖田に警戒されているのだと思っていたので、名前を呼ばれてちょっとうれしくなった。
「ったく、アイツは。」
「がっはっは!総悟が真面目に見回りに行くわけないだろう。」
「近藤さん、アンタ総悟に甘すぎンだよ。」
頭をガシガシと掻きながら、そう言って土方はの布団の横に腰掛け、近藤もその横に腰掛けた。
は、上半身は起こしているものの、下半身がまだ布団の中に入っていたため、
あわてて布団から出て正坐をしようとすると、
近藤に、そのままでいいから。と、押し戻された。
土方は煙草に火を付け、鋭い目だけをに向けていた。
は、土方の鋭い視線に身じろいだ。
それに気づいてか近藤が柔らかな口調でに話しかけた。
「名前、ちゃん?だっけ。総悟が言ってた…。」
「はい。と申します。山崎さんに聞きました。近藤さんがわたしを助けてくれたそうで、ありがとうございました。」
は近藤に向かってぺこりと頭を下げた。
それを見て近藤は「いいって、いいって。」と、またニッと笑って言った。
「俺ァ近藤勲。んで、こいつが土方十四朗。ホント、元気そうで良かったよ。全然目ェ覚まさないから俺心配しちゃって心配しちゃって。」
は近藤の言葉に顔がパッと赤くなるのを感じた。
人に心配されることなんて、どれだけぶりだろうか。
この人、本当にやさしい人なんだなぁ。
が近藤の笑顔に見とれていると、それまで鋭い視線を送っていた土方が口を開いた。
「アンタが元気になって良かったよ。こっちはアンタに聞きたいことが山ほどあるんだ。」
近藤の様子とは正反対に土方はニヤっと冷たい笑みを浮かべた。
”鬼の副長”
その笑みから、元上司の懐かしい呼び名をは思い出した。
同じ呼び名で真選組隊内で恐れられている土方は、そんなの頭中などいざ知らず尋問を開始した。
「まずは、刀だ。これはアンタが倒れてた時に握ってた刀だ。この刀、アンタのか?」
「はい!わたしの刀です。ありが…っと?」
土方が目の前に出した刀を、が受け取ろうとすると、土方はひょいと持ち上げた。
刀を取ろうとしたの手は、行先を失って空中にむなしく置き去りにされた。
みごとが、土方の問に引っかかったことに土方は笑みをいっそう深くして続けた。
「おかしいなァ。このご時世、一般人が刀を持つことは禁止されてるんだぜェ?しかもアンタは女だ。アンタ一体何者だ?」
「刀禁止なんて聞いたことがありません!それに女だろうと刀ぐらい持ちますよ!」
「…おい、お前廃刀令知らなねェのか?」
「廃刀令?」
女が刀を持っているということは、とりあえず置いといて、土方はあの有名な廃刀令を知らないことに驚いた。
の世界でも廃刀令は出されるのだが、
それはまだ先のことであるので、が廃刀令を知らないことは当然であった。
「明治政府がそんな条例出したんですか?」
「明治政府?おいおい、条例出すのは幕府だろ?」
「幕府?」
「江戸幕府だよ。お前頭大丈夫か?」
「…江戸幕府は滅んだでしょう?土方さんこそ大丈夫ですか?」
ピシ…。
部屋の空気が一瞬止まった。
が、すぐに土方が今にもに掴みかからん勢いで怒鳴った。
「おまっ、江戸幕府が滅んだだと!?もう一回言ってみろ、俺がすぐに切り捨ててやる!」
「トシ!トシ落ち着け!」
近藤が必死に土方を抑えながら、に向かって叫んだ。
「ちゃん、江戸幕府滅んでないからね!江戸幕府あっての俺達真選組なんだからねェェェェエエ!!」
は驚きすぎで返答できなかった。
本当にさっきからこの人たちは何を言っているんだ。
まるで、自分が間違ったことを言っているようではないか。
は、この疑問を近藤と土方に尋ねようとすると、
ブーーーン
外から機械的な大きな音が聞こえてきた。
近藤と土方は全く気にしていない様子であったが、
は何事だろうと、沖田が開けっ放しにしていた襖から外を見た瞬間、驚愕で言葉を失った。
空には大きな飛行物体が何体も浮かび、塀の向こうには高くそびえる建物が建っていた。
「…なに?アレ」
は、自分の常識がここで通じない理由がわかったようなきがした。
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はい!土方さんと近藤さんの登場です。
ヒロイン土方さんにキレられてますね(笑)
だんだん異世界だということに気付き始めました。