「アレ!!!?わたし、もしかして助かっちゃった!!!???」
act.2
高さ30mはあろう崖から飛び降りたのに、どうやら助かってしまったらしい。
は、布団から上半身だけ起き上がると頭を抱えた。
うそでしょう!?あの高さから助かるわけないじゃん!!
しかも、体を確かめると、擦り傷ひとつない。文字通り、無傷だ。
何で!!?
あー、切腹にしとけば良かったか。
いやいや、でも解釈してくれる人いなかったし、切腹の現場って悲惨だから発見者にいやな思いさせるし…。
は冷や汗を浮かべながら視線を泳がすと、
今まで世話をしてくれていたらしい青年が心配そうに見つめているのに気づいた。
「よかった、元気そうだね。君、屯所の前で倒れてたんだよ。」
…”屯所”?
それは川岸にあるのだろうか。
崖から飛び降り、上手く川に落ちて、ここに流れ着いたのなら、助かったのもわからなくはない。
何の”屯所”なのかは分からないが、きっと私はここの人たちにお世話になったのだろう。
不本意だけれども助けてもらったのだから、お礼は述べないと。
は青年に頭を下げて、お礼を言った。
「川で溺れていたところを助けてもらったみたいで、どうもありがとうございました。」
すると、青年はとても怪訝な顔をして、
「川?この近くには川なんてないし、君、全然ぬれてなかったよ。」
「…え?」
「だから、君はこの屯所の前で倒れてたの。」
…川がない?
だったら崖から飛び降りて、どうして地面に倒れていたんだ?
は再び頭を抱えて唸っていると、青年はにっこり笑って言った。
「見回りから帰ってきたら君が倒れてるんだもん、本当にびっくりしたよ。近藤さんが屯所の中まで運んでくれたんだよ。」
「…近藤さん?」
「そ。ここの局長さん。」
「…。」
…局長が近藤さん。
は胸がギュっと縮むのを感じた。
「あ、自己紹介がまだだったね。俺は山崎退。」
なんだここ。妙に懐かしい感じがする…。
”屯所”、”見回り”、”近藤局長”、そして”山崎”。久し振りに懐かしい単語を一気に聞いて、はなんだか泣きそうになった。
「うん?どうしたの?」
「ううん!知り合いに似た名前の人がいたからびっくりしただけです。…わたしは、。」
「じゃあちゃん、君が目を覚ましたら副長に連絡するようにって言われてるから、ちょっと呼んでくるね。」
「あの!副長って…。」
「土方さんって言ってね、顔は怖いけど、良い人だよ。」
山崎はにっこり笑って部屋を出て行った。
「…副長の、土方さん。」
本当に何なのだここは。
山崎が出て行ってすぐに部屋の襖が開いた。
「アンタが目ェ覚ましたって山崎に聞いたんでねィ。ちょっと拝見しに来たんでさァ。」
は”土方”が来たのかと思ったが、ひょこっと襖からのぞいた顔は栗色の髪をしたやさしい顔つきの青年であった。
「俺ァ沖田総悟。アンタの名は?」
「…と言います。」
…また似た名前。
さっき出て行った山崎とは同じような生地だが違う服を着ている。
どっちかっていうと、沖田の服の方が立派で高そうだ。
武州の土方の実家に土方が戊辰戦争に行く直前に撮った写真が送られてきたのを見せてもらったが、
その時に土方が来ていた洋装にどこか似ている。
この ”屯所” の中では、この沖田という青年が山崎よりも地位が上なのであろうか。年は山崎の方が上そうだけれど。
新撰組と同じだ。
は沖田を見ながら、そんなことを考えていると、沖田がの顔を覗き込んだ。
「へぇ。ホントに整った顔してらァ。こりゃ隊内で噂にもなるはずだ。」
「 噂?」
「眠り姫なんて言って、みんなアンタが目ェ覚ますの楽しみにしてんですぜィ。」
「それは困りましたね。わたし、”姫”より”侍”寄りな人間なんですが…。」
がそう言うと、沖田はニヤリと笑って、
「アンタおもしれェなァ。じゃあ倒れてた時に持ってた刀はアンタのなのかィ?」
「え?あ!わたしの刀あるんですか?」
「刀なんて持ってるから、アンタが攘夷派のスパイかもしれねェってんで、近藤さんと土方のヤローが持ってるぜィ。あとシュミ悪い浅葱色の羽織もな。」
「”シュミ悪い”って…!!っていうか、あの羽織見れば敵か味方かわかるでしょう?」
「見たこと無ェよ。あんなダサイ羽織。」
こいつ、壬生の狼と恐れられた新撰組を…!新撰組の羽織を…!ダサイだと!?
私が新撰組だと聞いて腰を抜かすといい。
は今すぐ沖田をぶん殴りたい衝動をぐっとこらえて、ひくつく頬で笑顔を作った。
「ダサくてすみませんねぇ。でもアレ新撰組の隊服なんですけど!!」
は、フフンと、どーだ!参ったか!と言わんばかりの顔を沖田に向けると、
沖田は少し目を見開いたが、ハァとわざとらしく溜息を吐いて言った。
「アンタ本当に面白れェなァ。でもその冗談は面白すぎて笑えねェよ。アンタこそ、この隊服見てわかんねェのかィ?」
「?沖田さんの服?そんな洋装見たこと無いですよ。」
「ははーん。さてはアンタ田舎者だなァ?」
「な!住んでるところは田舎かもしれないですけど、昨日江戸でお菓子買ったばっかですよ!」
今日初めて会った奴に田舎者扱いされるとは…!かなり憤慨である。
江戸の様子はたびたび見に行っていたため、沖田に田舎者呼ばわりされるほど、は武州にこもっていない。
「っていうか、ここ武州でしょ!?田舎じゃないですか!」
「…アンタ倒れた時に頭おかしくなったのかィ?」
「はい!?」
「ここ江戸だぜィ。」
「…え!?」
「ここは江戸で、そして俺達は真選組だ。」
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!????
が口をあんぐり開けていると、沖田はニヤリと笑って言った。
「残念だったなァ。俺が本当の真選組だぜィ。」
どういうこと!!???
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沖田君が登場です。
ヒロインしゃべり方は敬語ですが、心の中は少々(結構?)黒いですかね。
次はあの人たちの登場です。