<!注意!>
クリスマス特別夢のため、少々物語が先に進んだ設定です。
ヒロインは一番隊に所属の隊士になっており、結構馴染んでいます。
以上のことを気を付けてお読みください。
















● non silent night ●









街中にイルミネーションが光り、商店街ではクリスマスソングが流れている。
フライドチキン屋のマスコット人形”鳥屋のおっさん人形”にもサンタの帽子がかぶせてある。
聖夜を一週間後に控えた江戸の町はクリスマス一色に染まっていた。
そんな町の中を見廻りでと近藤が2人で歩いていた。



「最近、街中がキラキラしてとても綺麗ですけど、もうすぐお祭りでもあるんですか?」



は興味津津といった様子で近藤に尋ねた。
の世界にクリスマスという風習は無かったため、は当然クリスマスを知らない。



「そういえばもうすぐクリスマスだからだなぁ。」

「クリスマス?」

「あァ、ちゃんはクリスマスを知らないか。クリスマスはね、キリスト教のイエス・キリストの誕生日なんだよ。」

「切支丹!江戸のみなさんってみんな切支丹なんですか!?」



の世界では、キリシタンは長い間迫害され続けていた。
開国に伴って、明治政府は五箇条の御誓文を出し、キリスト教を認めたが、
それは諸外国向けのもので、実際日本国内ではキリスト教はまだ受け入れられていなかった。
まさか江戸の街がキリスト教の祭りで盛り上がっているとは驚きであった。
そんなの反応に近藤は笑って否定した。



「いやいや、別に皆キリシタンって訳じゃないんだけどね、むしろ皆仏教なんだけどね、楽しいからやってんの。たぶん。」

「へー。宗教の枠を超えてみなさん楽しんでいる訳ですね!」

「まぁ、そういうことだね。」



この世界の和洋折衷さを、封建社会でガチガチに固められて育ったは何気に気に入っていた。



「クリスマスは、どんなことをするんですか?」

「そうだなぁ。恋人や家族といった大切な人とケーキとかを食べて過ごすんだ。」

「けいき?」

「”けいき”じゃなくて”ケーキ”。お菓子だよ。あ、ほら!ちゃん見て。あれがケーキ。」



そう言って、近藤はちょうど通りかかったケーキ屋さんのショーウインドウに飾られれいるクリスマスケーキをに見せた。
ケーキを初めてみたは目をキラキラさせてショーウインドウに張り付いた。



「ふわー!綺麗!これ食べ物なんですか!?」

「美味いぞー。そうだ、クリスマスはケーキ買ってトシや総悟とクリスマス会でもするか!」

「はい!」



は満面の笑顔で近藤に返事をした。
近藤はの本当に嬉しそうな顔を見て、我ながら良い提案だったとうんうん頷いた。



「あ、でも近藤さん、お妙さんと過ごさなくても良いんですか?」



お妙さんは近藤さんの大切な人なのに。と言うに近藤は苦笑して、



「いやー、先週から毎日誘っていたんだが、断られ続けてね。だから良いんだよ。」



と、答えた。
あぁ、そうか。何やら最近、外から帰ってくる近藤に生傷が絶えなかったのは、お妙さんに毎日アタックしていたからだったのか。



(近藤さん、また間違った方法で誘っていたんじゃ・・・。)



は近藤を憐れむような目で見つめた。
でも、



(クリスマス楽しみだな!)



は初めてのクリスマスに心を躍らせた。




















そして、クリスマス当日。





クリスマスといっても、真選組には通常通り仕事があった。
一番隊の仕事をハイペースで終わらせたは、見廻りの帰りに、
沖田とともにケーキ屋さんからクリスマスケーキを受け取って、日の暮れた道を2人で歩いていた。



「また近藤さんデカイケーキ予約したねィ。4人で食いきれるかねェ?」

「山崎さんや山野さんにお裾分けします?」

「食いきれなかったときはな。」



そんな会話をしながら歩いていくと屯所が見えてきた。
2人は門のところに高級車が止まっていることに気付いた。



「あれ?お客さんですかね?」

「松平の旦那の車だなァ。」








沖田の言うとおり、松平片栗粉が屯所に参上していた。
松平は、近藤と土方を飲みに誘いに来たという。



「近藤!土方!メリークリスマスだ!飲みに行くぞ!今日はおじさんの奢りだぞー!」

「いや、あの、その、今日は屯所でクリスマスパーティーを。なんてなぁ。」

「何言ってんの近藤。こんなムサイところじゃなくてさー、パァーっと可愛い女の子いっぱいのとこでパーティーしようぜェ。」

「は、はぁ。」

「とっつぁん、なんで俺もなんだよ。」

「土方ァ。分かってないねェ。お前が来ないと店の女の子が沢山寄ってこないでしょーが。」

「何だその理由!」

「それにほら、近藤がストーカーしてるお妙ちゃん?今日入ってるらしいから。」



えぇ!俺の誘い断ってバイトに入ってんの!?と項垂れる近藤の腕を引き松平はグングンと車の方へ歩き出す。
それに続いて土方も仕方がないといった表情で続いた。
2人が松平に連れられて屯所の門を出たところで、ケーキの箱を持った沖田とに鉢合わせた。
近藤は心底申し訳ないといった表情でに誤った。



「ごめんねちゃん。飲みに行くことになっちゃったから、クリスマスパーティーできなくなっちゃった。」

「わりぃな。」

「近藤さん、土方さん、大丈夫ですよ。松平様お誘いなら仕方がないです。場所はスマイルですか?」

「あぁ。」

「近藤さん良かったじゃないですか!クリスマスにお妙さんに会えますよ!」

ちゃん…。」



近藤はに申し訳ないという気持ちでいたたまれなくなった。



「おーい!近藤!土方!出発するぞー!」



その松平の言葉で近藤と土方は車に乗り込んだ。
ブウン!と、音を立てて出発する車を見送って、は横にいた沖田に苦笑しながら話しかけた。



「沖田さん、置いてけぼりですね。」

「クリスマスにキャバクラなんか行きたくねェや。それより、夕食の量に気をつけろよ。」

「何で?」

「2人で1ホール食うことになったから。」

「お裾分けしないんですね。」



クリスマスパーティのメンバーが一気に半分に減ってしまい、の顔にはやはり残念な表情が出ていたが、
沖田は逆に機嫌が良くなったようだ。
と2人でのクリスマスパーティというのが沖田のテンションを上げさせたのである。



(近藤さん、逆にグッジョブですぜィ。)



そんな対照的な2人が屯所の廊下を歩いていると、山野が駆け寄ってきた。
手には鳥屋のおっさん人形が被っていたのと同じサンタクロースの帽子を握っている。



ちゃん!見つけた!おーい皆ァ、ちゃん帰ってきたよー!」



やけにテンションの高い山野は手に持っていたサンタ帽子をにギューっと被せた。



「うお!山野さん!?」

「はい!ちゃんサンタのできあがり!あっちで皆宴会してるから来て来て!」

「山野、お前酔ってるだろ。テンションがキモイ。」

「沖田隊長それクリスマスケーキじゃないスか!隊長!ナイスです!さあさあこちらへ!」



サンタ帽を被されてちょっと嬉しがると、ものっすごい嫌ーな顔をしている沖田の腕を引いて
山野は一番隊がクリスマスパーティと称した宴会を開いている部屋に入った。
部屋には、一番隊の隊士達が勢ぞろいしていた。
と沖田の姿に「待ってましたー」「ケーキ!!」など歓声が上がった。



ちゃんがきっとクリスマス初めてだろうってことで、一番隊でクリスマスパーティすることになったんだ。」



山野がにワイングラスを渡しながら説明をした。
計画通り近藤達とクリスマスパーティをしていたら、一番隊隊士達の素敵なパーティ計画がパァになっているところだった。



(結果的には良かったってことですね。)



は「ブドウ酒初めて見ました。」と言いながら、グラスにワインを注いでもらい上機嫌で、
隣にいる沖田を見ると、沖田はぎりぎりぎりぎりと歯ぎしりしていた。



(…悔しがっている!?)



がギョっとしながら沖田を見ていると、
酒を飲んで騒いでいた隊士の一人が沖田の手からクリスマスケーキをヒョイと持ち上げた。



「ケーキありがとうございまァす隊長!人数分に切ってきまァす!」



酔っているためか、語尾の伸びた口調で話す隊士に、沖田は「ハァ。」とため息をつき、
諦めたように『鬼嫁』をワイングラスに並々と注いだ。



「ワイングラスに日本酒っていうのも結構粋ですねぇ。」



は沖田にしみじみと言った。
ワイングラスに日本酒を注いで飲むという奇妙な組み合わせも沖田がすると絵になるなぁなんては感心した。



「良かったじゃねぇか。大人数でクリスマスパーティできて。」

「はい!」

「といっても、いつもの宴会と変わり無いねィ。」



酒と料理で宴会と言ったら、だいたい同じ感じになるものだ。
初めは、やれワインだシャンパンだとクリスマス的なことを言っていたが、早くも日本酒やビールが飛び交っている。



「楽しいから良いんです!」



そう言って宴会の輪に入っていたの笑顔は心底楽しそうで、沖田もこれは観念しないといけない。
と2人きりのクリスマスなんて淡い夢をあきらめた。



「ケーキ切りましたよぉー!」



沖田が再びグラスに日本酒を注ぎ始ると、部屋にケーキを切りに行った隊士が帰ってきた。
人数分にきれいに分けられたケーキは鋭角だった。













クリスマスパーティと称した宴会で思う存分ドンチャン騒ぎをして、酒に沈む隊士が続出し自然とパーティはお開きとなった。
も久しぶりに飲みすぎて、火照る頬を冷ますため、屯所の屋根に上っていた。
酔い醒ましのために屋根に上るあたり、かなり酔っている証拠である。
師走の冷たい風が頬に当たり気持ちがよく、は目を細めた。



(飲んだのは、えーと、ワインと日本酒と焼酎とビールか。酒の種類が変わると酔うんだよね。)



酔った頭で分析をするの背後に、にゅっと月影が伸びた。



「酔っ払いが屋根に上るたァ、よく落ちなかったねィ。」

「あれ、沖田さん。何でここに?」

「ここは俺の特等席でさァ。」



適当なことを言って沖田はの横に腰かけた。



「どうだった?ケーキは。」

「すっっっごいおいしかったです!あんなに美味しいお菓子は生まれて初めてです!」

「まぁ、女は甘いもの好きだからねィ。」

「でも、あの量で充分ですね。予定通り沖田さんと半分こしてたら、ちょっとクドくなりそうでした。」

「…お前飲んべェだな。」



甘いものが沢山食べられない人は酒飲みの才能があると居酒屋のオヤジに言われたことがある。
沖田のそんな思案もよそに、は商店街に煌めいているイルミネーションを見つめた。



「そういえば、サンタさんっていないんですね。さっき山野さんから聞きました。」



近藤はクリスマスにはサンタさんがプレゼントをくれると教えてくれたのに。
この一週間サンタを本気で信じていたを、山野はまた大笑いしたのであった。



「サンタねェ。」



沖田が意味深に呟く横で、


くしゅん


とクシャミをした。師走の夜風はどうやら熱を冷ましすぎたらしい。




、サンタがいないってことは、誰でもなれるってことだぜィ。」

「え?ふお!」



そういうと、沖田は隠し持っていた耳あてをの耳にガスンとはめた。



「ふわふわ…。これは?」

「耳あて。沖田サンタからのクリスマスプレゼントでィ。」



もともと沖田はにクリスマスにプレゼントをするつもりではなかったのだが、
最近鼻の頭と耳を真っ赤にしながら見廻りをするを見ていて、耳あてを買ってやろうと思いついたのである。
白いふわふわの耳あてだ。
沖田にしては、結構真面目に選んだ品でもある。



「ありがとうございます!あったかいです。」



嬉しそうに笑うを見て、沖田は照れ隠しにの両耳を耳あての上から両手でギューっとした。
「いたいいたいいたい。沖田さん!頭がつぶれる!」と叫ぶに沖田は笑った。
買ってよかった。



「しかし困りました。サンタは沖田さんに何もプレゼントを用意していないです。」



すいませんと申し訳なさそうに謝るに沖田はニヤリといつもと同じ笑みを浮かべた。



「じゃあ、サンタには俺の言うこと1個聞いてもらいやしょうか。」

「な…なんでしょう?」

「1回”総ちゃん”って呼びな。」

「え?そんなことで良いんですか?」



いつもの裏がありそうな笑みで言うから、もっとドS王子的なものを要求されると思っていたは拍子抜けした。
しかし、いつもと違う呼び方で呼ぶというのは緊張するものである。
歳は変わらないが仮にも上司にそんな呼び方しても良いのだろうか。
葛藤するに沖田は「早くしろィ。」と急かした。



「そ…そうちゃん。」



が顔を真っ赤にしながら消え入りそうな声で言った。



「もっかい。」

「総ちゃん。」

「もっと。」

「そーちゃん!」



が叫ぶように3回目の”総ちゃん”を言うと、沖田はのおでこに右手を置いての前髪を上げ、





ちゅ





とキスをした。デコチューだ。
は突然のことに目を見開いた。
それを見て沖田はぷっと笑った。



「その驚き顔、うけるねィ。」



沖田はそう言うと、ポンポンとの頭を叩いて立ちあがると、



サンタさん、プレゼントありがとうございましたァ。」



と言って、はしごに足をかけて屋根から下りていった。
ちゅー逃げされて残されたはというと、いまだに放心状態だ。



「う・・うけるって!お、おでこにちゅーって!!!」



(ひょっとして、からかわれた?)



アンビリーバブル!といった感じに、が両手を頭に当てると、沖田からもらった耳あてに触った。



(…あったかい。)



は屋根にゴロンと寝転がって星を見上げた。




「クリスマス…かぁ。」




ちょうどオリオン座が真上に来ていた。



















次の日、沖田は見廻りで耳あてをしているを発見し、口角を緩めた。










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アンケート結果を踏まえまして、ちゃんと沖田夢…だよなぁ。
メリークリスマスですー!
クリスマス夢ということで、若干、かなりの若干ですが甘要素を。と、考えた結果の撃沈。(笑)