act 23
目をあけると、真っ白い天井が目に入った。
視線をずらすと、真っ白い壁。
初めて見る白ばかりの部屋。
なんだか、白い箱の中に入れられている気分だ。
顔をおなかの方に向けると、金色が目に入る。
(あ、沖田さんだ。)
沖田はの手を握ったまま、どうやら寝ているらしい。
やわらかい金色の髪が太陽の光をあびてキラキラ輝いている。
は眩しそうに目を細めた。
この『ひと段落した感じ』、久しぶりに感じる。
きっと、私は血を流しすぎて気を失ったんだろうな。
そして助かって、今まで寝ていた。と。
新撰組時代、限界まで戦って気を失い、気付いたら屯所だった。という経験は何度かしたことがある。
そのたびに、隊長殿達に大目玉を喰らったものだ。
(沖田さんにも怒られるかな・・?)
なんだか、怖そうだな。陰険そうだし。
そう考えながら、は沖田が握っている自分の手を見た。
腕に針が刺さっている。そこから管が上に伸びている。
管の先を目で追っていくと、丁度頭の上ほどに液体の入った袋がぶら下がっていた。
と、いうことは?
この液体が、この管を通っての体内に入れられているということだ。
え?ナニコレ?え?ほんと、ナニコレ?
「えぇ!!!?何が、コレ、え?私何入れられてるのコレーーー!!!??」
「うるせェェェェ!!!!」
ゴンッ
沖田に思いっきり頭を殴られた。
あ、起こしちゃって怒ってるんだ。
それにしてもいたい!
「あいた!ちょっと、沖田さんっ!!何これ!!何この液体!!!!」
「あァ?どこからどう見ても点滴だろうがよィ。」
「テンテキ?何ですかソレ?毒?」
「病院で毒盛られてどうすんだ、栄養剤。、お前はこれでメシ食わなくても3日間生きれたの。」
「テンテキ…、栄養なんだ。って、え!!?私、3日も寝てたんですか!!??」
やっぱりこっちの世界は凄いものが沢山あるなぁなんて、呑気に感心していたが、3日!!?
3日も寝ていたというのか。
驚くに、グイっと、沖田は仏頂面の顔を近づける。
「そーだ。血は失ってるわ、雨で体温は低下してるわで、大変だった。」
「そう、だったんですか。」
わたし、生死の境をさまよったんだ。
「近藤さんは泣きわめくし、土方さんは捕えた浪士シバくし、隊士は皆見舞いに来たいって騒ぐし、大変だった。」
「あ、そういう意味で大変だったんですか。」
別に生死の境はさまよってなかったのか。
ドキっとして損した。
が乾いた笑いをしていると、沖田はの頬に手を添えた。
「がこのまま目ェ覚まさねェんじゃねェかって考えたら、もう、なんか、俺、大変だった。」
「・・・っ!」
大きな金色の目が、まっすぐの瞳を見つめる。
は、その真剣な瞳から、目を逸らすことができなかった。
すると、沖田は上半身だけ覆いかぶさり、寝ているの体を抱きしめた。
「お、おき・・・「頼れィ。」」
「え?」
「俺らを、俺を頼れよィ、。」
沖田はを抱きしめる力を強めた。怪我した腕が痛かったが、は我慢した。
すぐ耳元で、沖田の声がする。
いつもより近くで聞くその声は、いつもよりすぐ身体に入って胸で響くような気がした。
「死んじまったら、終わりじゃねェか。」
いままで沢山人を斬ってきたからわかる。
戦って、斬られて、死ぬ。そして、死んだらそれで終わりだ。
自分が今まで斬ってきたように、自分もまた簡単に斬られて死ぬのだろう。
そう思っては生きてきた。沢山の命を手にかけた者として、そうあらなければならないと思ってきた。
正直、目を疑った。
と高杉の戦闘現場に到着したとき、の腕には高杉の刀が刺さっていて、首根っこを絞められ、
早くしねェと、マジでが殺されるっていう場面だった。
自分が今殺されるのに、それにもかかわらず、アイツは微笑んだ。
死を受け入れて、微笑んだんだ。
「自分の命を粗末にするヤツに、市民の命は預けられねェ。」
抱きしめていた腕を離し、さっきまでとは違った、凛とした口調で沖田は言った。
「でも、」
「でももくそもあるか。お前の新撰組の考え方を全部捨てろとは言わなねェ。
ただ、テメェの尻の拭き方は真選組流に変えろィ。」
「沖田さん、」
「隊長命令だ。」
「・・・はい。すみませんでした。」
そう答えて、しゅん、と項垂れたの顔の横に沖田は両手をついた。
「あと、」
「はい」
「俺を心配させたバツとして、ちゅーさせろィ。」
「はぁあ!!?・・・っ!!」
ちゅっと、わざとリップノイズを出して沖田はの唇にキスした。
「な、ななななななな・・・・!!!!!」
真っ赤になって手の甲で唇を押さえるを横目に、沖田はよっこいしょっと立ち上がった。
そして、出口のドアの方に歩きだすと、振り向かずに右手を挙げた。
「じゃ、はやく退院しろよィ。お前の分の事務仕事が山ほど溜まってくから。」
「い・・言われなくても養生しますよっ!!」
「じゃあな。」
「〜〜〜〜〜〜っ!!!沖田さんのばかばかばかばかばか!!!!!」
の罵声から逃れるように沖田は病室から出て行った。
に対するいつもとは違う振る舞いに、自分自身、少し戸惑ったためか、沖田の頬にも少し赤みが差していた。
血がどんどん流れて、蒼白になっていくを見ながら、何もできない自分に腹がたった。
そして、俺をこんなに苦しめているにも同じくらい、いや、それ以上に腹が立った。
いっそのこと、アイツを俺にしか見えないハコに閉じ込めて、俺だけものにできたらいいのに。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
高杉と出会う、の巻の完結でございます。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。