近藤の悲鳴を聞いて、慌てて駆けつけた4人の目の前に映ったのは、
火にあぶられたゴリラでした。
act.15
「おおぉぉぉぉおぉ!?近藤さぁぁん!え?何コレ。山崎さん、どうしよう!」
意識を失っているらしい近藤がロープで身体をぐるぐるに縛れて木から吊るされ、
下から焚火の火であぶられている様子を直視したはプチパニックに陥り、山崎にすがりついた。
山崎も、あまりの状況に声も上げられず固まっている。
神楽に限っては「あぶりゴリラネ。」などと、悲惨な近藤の状況をのんきに眺めていた。
家の中から新八の叫び声が聞こえてきた。
「姉上!姉上ェエ!ちょっと待ってください!ちょっと落ち着いてェ!!」
4人が家の方向に目を向けると、刀を抜いた鬼の形相の妙がこっちに向かっている。
新八はそんな妙を必死に止めようとしているが、どうにも止まらないらしい。
「おいおい、お妙。本当に近藤を殺るつもりか?」
銀時は耳の穴をほじりながら、間延びした声で言った。
神楽といい銀時といい、この状況で落ち着いていられる2人には感心した。
「ちょっと銀さん!神楽ちゃんも!呑気に眺めてないで、一緒に姉上を止めてくださいよ!」
ちっとも必死感を感じさせない2人に新八がたまらずツッコんだ。
これが、常人の反応というものだろう。
「新ちゃん、止めないで。わたし、今日という今日はあのゴリラをこの世から抹殺しなければ気がすまないの。」
「あぁ?どうした、着替えてるところでも覗かれたか?」
「何ィ!?女の敵アルな。速攻で始末するアル。」
「違いますよぉ。姉上がB’zの歌を練習してるのを聞かれたんです。」
「何ィ!?女の敵アルな。速攻で始末するアル。」
「B’z聞かれたらしゃーねぇなァ。殺ればいいんじゃね?ウルトラソウればいいんじゃね?」
「どぉーしてそうなるんですか!っていうか”ウルトラソウる”って何ですか!」
「え?新八知らねェの?稲葉さんが『ウ ル ト ラ ソウル!』って言ったら、火花がバーン!って…」
「それは知ってるわァ!日本国民全員知ってるわァ!」
万事屋3人が揃ったことで、漫才のような会話に勢いが増した。
この3人では妙を止めることはできないだろうと、山崎は盛大にため息を吐いた。
まぁ、妙が本当に近藤を始末するとは毛頭思っていないが、真剣を持っている以上、
近藤が無傷で屯所に帰れるとは限らないのだ。
現にもう火あぶりにあっている。
「死ねェェェエ!近藤ー!!!」
万事屋3人がギャアギャアと騒いでいる間に、妙は刀を振りかざして近藤に斬りかかった。
「げ。」
「しまった!姉上ェ!」
「姐御行くアルー!!」
「ギャー!局長ー!!!!」
それぞれの悲鳴が庭に響く中、妙の振りかざした刀は振り下ろされなかった。
否、振り下ろせなかったのである。
「だめですよ。か弱い女性がそんなもの振り回しちゃあ。」
が妙の振りかざした刀を後ろから妙の手ごと握って止めていた。
「ほらほら、折角の美人が台無しだ。」
後ろから妙の顔を覗き込むのその横顔は中性的で、そこに微笑も加わって、
間近で直視してしまった妙の顔は真っ赤に染まった。
「さ、危ないですから刀を渡して。ね?」
「は…はい///」
ポニーテールに袴姿も合いなって、完全に美男子モードに入ってしまったに、
妙は先ほどまでの勢いはどこにいったのか、シュンと、しおらしい乙女となり、
新八が全力でも奪えなかった刀を、は簡単に取りあげてしまった。
「・・・ハァ。ちゃん格好良すぎ。」
近藤が一命を取り留めたことに安堵しながら、山崎はの男前行動に苦笑した。
漫才のような会話を繰り広げていた万事屋3人も、今のの行動に視線が釘付けになったようで、
「…、メッチャ格好良いアル。」
「いや…格好良いけどだな、え?何?嬢ちゃんもソッチ系なの?」
「あ…姉上の前に第二の九兵衛さんが…!!」
それぞれに心の声を口に出してブツブツ言っている。
そんな観客を余所に、は妙の両手を正面から握って、伏せ目がちに言った。
「近藤さんの行動が、お妙さんの怒りに触れてしまったこと、本当にすみませんでした。」
「い…いえ、そんなこと。」
「でも、私たちにとって近藤さんはとても大切な局長なんです。今回だけ、見逃してあげてはくれませんか?」
大きな瞳で首を傾げられて、
ドキューン!
そんな擬音が今にも聞こえてきそうなくらい分かりやすく、妙がに落ちた。
「わたし、全然怒ってないわよ。誰?私が近藤さんに怒ってるって言ったの。」
しれっと、万事屋3人に向かって言い放った妙に、以外全員がズッコけた。
「お前ェェ!態度全然違うじゃねェか!!」
「姉上…変わりすぎです。」
万事屋男衆が口ぐちにツッコむ中、妙はキラキラした目でに尋ねた。
「あの、あなたお名前は?」
「あ、申し遅れました。私、真選組一番隊のと申します。」
「さんね。私は、」
「知っていますよ。お妙さんでしょう?真選組でも良く話題になってますよ。」
「まぁ!さんに名前を知ってもらってたなんて、どーしようー!照れちゃうー!」
どんな話題で話に上っているのかは都合の良い耳が聞き流したようで、妙のテンションは急上昇した。
火照る頬を両手で押さえて、くねくねと動く妙に、神楽も呆れた。
「…いつもの姐御じゃないアル。」
「ねぇ、山崎くん。嬢ちゃんってアッチ系なの?」
が妙の気を引いている今が近藤救出のチャンスと言わんばかりに
近藤の縄をせっせと解いてる山崎に銀時が話しかけた。
「いやいや、違いますよ!!ただ、ちゃん昔男装して生活してたらしいから、自然と”男前”が出ちゃうんじゃないですか?」
山崎は両手をブンブンと振って、のアッチ系容疑を否定した。
”男装”という単語に銀時が眉を上げる。
「ふーん。男装ねぇ・・・。」
「姉上が・・・、姉上がソッチの世界に入っちゃったらどうしよう・・・。」
「まぁ新八、嬢ちゃんは違うってんだから、心配いらねェんじゃねェの?」
「そ…そうですよね!さん普通に着物きたら可愛い子ですよね。」
「ああ、前ドラッグストアで会った時は着物だったなァ。」
「どうでした!?可愛かったですか??」
「何だァ?新八ィ、やけに食いつきが良いなァ。」
「チェリーボーイだから必死ネ。」
「オイイィィイ!神楽ちゃんそんなこと言わないィィ!!」
「確かに可愛かったけど、あのカッコはあのカッコで可愛いじゃん。」
「ワタシ、の隊服姿が見たいネ。」
「そうかァ?平隊士って山崎くんの服ってことだろ?着物の方が全然良くね?」
「いや、ちゃんの隊服はミニスカートですよ。」
「「ミニスカートォォなのォ(なんですか)!?」」
「銀ちゃん、新八、食いつきすぎアル。」
4人がを観察するように話しをしていると、妙が神楽に向かって話しかけた。
「神楽ちゃーん!これから家でさんとお茶するんだけど、神楽ちゃんも一緒にどうー?」
「何!お茶!?行くアル〜!お菓子もあるアルかー?」
食べ物にありつけるということで、神楽がものすごい速さで妙との方に駆けて行った。
も山崎に向かって言った。
「そういうことなので、近藤さんと一緒に先帰っててください!」
「わかった。ちゃん今日非番だったのにありがとね。ゆっくりしてきて。」
の嬉しそうな笑顔に山崎が微笑んだ。
妙と神楽はにとって、この世界の初めての同性の友達になるだろう。
そうやって、どんどん馴染んでいけば良いんだ。
もう自殺なんて、ちゃんに似合わないこと考えないようになったらいい。
山崎の微笑を見て銀時は「あー。」と言いながら頭をかいて鍔を返した。
「じゃあ一件落着ってことで、俺帰るわ。」
「銀さん、わざわざありがとうございました。姉上が近藤さん処刑しなくて、ホント良かった。」
「ホント良かったですよ。じゃ、俺も局長連れて退散しますね。新八くん、お騒がせしました。」
門を出た山崎に銀時が尋ねた。
「なあ、男装してたって、嬢ちゃんって何者なの?」
「ちゃんの許可が無ければ、俺からは何も言えませんけど・・・、真選組に似たところにいたんですよ。」
「ふーん。」
「じゃ、俺はこれで。」
と、山崎は近藤をパトカーの後部座席に乗せて、発車させた。
道に残された銀時は、新八の家を振り返り、
「真選組似たところって、剣繋がりでまさか攘夷派とかじゃないよね?」
いや、もし元攘夷派だったら真選組に入れないか。
今度嬢ちゃんとゆっくり話したいねェ。
銀時は頭に手を組んで、のんびり歩きだした。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ストーカー救出作戦完結です。
ヒロイン、美男子モードという新たな域を見せましたね。
お妙ちゃんは美男子モードヒロインにfall in loveです(笑)
そして衝撃的なことに、近藤さんは目を覚ましませんでした(爆)