えっと、これは…これ着るんですか?
act 13
とある料亭の一室、と土方はぴったりとくっついて息をひそめていた。
「ひ…土方さん、押さないでくださいよう。」
「うるせぇな。もっと屈めよ。見えねぇだろうが。」
「ちょっ、背中!背中いたい!膝で背中踏まないでください!!」
「しっ!気付かれる。」
高級料亭の一室に男女2人きりだというのに、甘い空気など一切ない。
二人は少し開いた襖にピッタリとくっついて隣の部屋の様子をうかがっている。
が屈んで見て、その上から土方が背伸びをしながら見るという、何ともアンバランスな状態で二人は息を潜めている。
そんな二人の視線の先、隣の部屋には、近藤と松平片栗粉が座っていた。
只今、近藤がの入隊を松平に交渉中なのである。
近藤と土方が入隊を許可したとはいえ、松平がNOと言えば一瞬での入隊の話は消えてしまうのだ。
と土方は松平の許可を待ちつつ、近藤の合図で松平に挨拶しようと隣の座敷で待機しているという訳だ。
松平が煙草に火を付ける。
「おう近藤。大事な話ってェのはなんだ?」
「入隊させたい奴がいるんだが、とっつぁんに許しを得ようと思ってな。」
「あぁん?いいじゃねェか、お前らが一緒に戦いてぇと思う奴を入隊させれば。」
「それがな、女なんだが、いいかな?ちゃんとトシが出した入隊試験にも合格してる。」
「女ァ!?女の隊士なんて前代未聞じゃねぇか。っていうか入隊試験合格したって、どんなゴリラ女だよ。」
「実はな、今ここに連れてきてるんだ。」
「えぇ!?そんなゴリラ女におじさん会いたくないんだけど。」
「ゴリラじゃないって!ちゃーん!入ってきていいよー!」
近藤に呼ばれてはビクっと反応した。
「土方さん、もっと松平様に私を売り込んでもらってから出ていく予定でしたよね…?」
「あぁ。もっとタイミングがあっただろうに…。しかたねェ、行くぞ。」
「…はぁい。」
は襖を開けると、部屋には入らずにその場で手をつき深々と頭を下げた。
「近藤局長に御紹介に与りました。と申します。」
「ちゃん、もっと近くに来なさい。」
「はい。」
近藤に促されては部屋に入り、松平の近くまで寄った。
の顔を見て、先ほどまで気だるそうな顔をしていた松平の顔が輝く。
「え?え?君がそうなの?いやーおじさんなんか勘違いしてたみたいで悪かったねェ。」
「勘違い・・・?この度は松平様に入隊の許可を貰うべく参上仕りました。」
「そーんな”松平様”なんて堅苦しいのはやめようや。”パパ”って呼んで。」
「パパ?」
パパとは?と、頭に”?”が飛んでいるに、松平は
「そうそう、おじさんのことはこれから”パパ”って呼んでくれればいいから。」と言っての肩に手を掛けた。
するとすかさず、土方がと松平の間に割って入り、松平の手を退かせた。
「で?とっつぁん。を入隊させても良いか?」
「こんな可愛い隊士ちゃんだったら大歓迎だ。それにしても土方ァ、ちゃんはどんな試験クリアしたんだ?」
「平隊士4人と伍長1人と同時に戦わせた。平隊士4人を負かして、伍長と引き分けだ。」
「ほぉー。文句なしだな。よし!入隊許可だ。」
「ありがとうございます!!!」
「良かったなぁァ。ちゃん。」
近藤とは顔を見合わせて「にししし。」と笑った。
松平はを見ながら顎に手を当てて何か考えるような素振りをみせると、
「よし。ちゃんには専用の隊服を用意するから、それ着ること。」
「はい!わかりました!」
快く返事をするに、近藤と土方は「専用の隊服?」と首をひねった。
このオヤジ、また何か変な事企んで無いだろうなァ・・・。
翌日、早速松平から宛に隊服を入れた段ボールが届いた。
小包の周りには、、近藤、土方、沖田がそろっている。
「おい総悟、なんでお前までいるんだよ。」
「そりゃあ我一番隊の部下の隊服が届いたって聞いたんでね、隊長として見に来たんでさァ。」
「えぇ?いつちゃんを一番隊に配属したっけ?」
「一番最初にを真選組に入れようと思ったのは俺でさァ。当然所属は一番隊でしょう。」
「まぁ、俺も一番隊に配属しようと思ってたから良いけど…。ちゃんは一番隊所属で良い?」
「私も一番隊に入りたいと思っていたんです!」
素直に一番隊配属を喜ぶに沖田は満足そうに笑みを浮かべた。
「オラ、。早く包みを開けろ。なーんか嫌な予感がしてならねェんだよ。」
「はい。」
が番ボールを開けると、真っ黒な上着が一番上に入っていた。
平隊士と全く同じ形だ。
これを見て近藤は怪訝な表情をする。
「・・・・・・このサイズなら在庫いっぱいあるじゃんか。」
が上着を取り出すと、下にスカートが入っていた。
上着と同じ黒地に裾に黄色いラインが入っている。
「スカートですねィ。」
「あぁ。スカートだな。」
「「「・・・・・・・・。」」」
「スカートってなんですか?」
嫌な予感が的中したと土方は頭を抱えた。
可愛い少女が真選組の隊服を着ると言ったのだ。
松平のことだからミニスカートを用意することは容易に想像がついたことだった。
「あと、帯が2つ入ってますね。」
が長い帯状のものを2つ取り出した。
ニーハイソックスだ。
「ニーハイソックスとミニスカート・・・。」
「あの変態オヤジめ・・・!」
「よし。今日はこれ着て見廻りだぞ。」
何で総悟は冷静なのぉ!?と近藤がツッコむ。
一方、土方は松平直々に送ってきたものを断る訳にはいかないと半ば諦めモードである。
そんなそれぞれの表情を片目には隊服を持ち上げて言った。
「すいません、洋服の着方がよくわからないんですが・・・。」
別室で隊服に着替え終わったが披露しに、再び3人の前に現れた。
着物や袴に慣れたにとって、ミニスカートで生足を露出することに抵抗があるようだ。
太ももの辺りをさすりながら、近藤達に言った。
「あの、えっと、これは・・・毎日これ着るんですか?」
3人は言葉を失ってを見つめていた。
細く白いスラっとした足に、ニーハイソックスとミニスカートが映え、
また、スカートと隊服のカチっとした上着がうまい具合に似合っているのだ。
「ちゃん似合うー!!!」
近藤が叫ぶ。
「、お前ちゃんとパンツはいてるか?」
と、下からスカートの中を覗き込もうとする沖田に土方がゲンコツをすると、オホンと咳払いをして言った。
「、総悟と見廻りのついでにホットパンツ買ってこい。」
「ホットパンツ?」
「えー、土方さん、スカートの下はパンツじゃないとロマンが無いですぜィ。」
「うるせぇ!ロマンもクソもねェよ!」
まだ恥ずかしそうに足をモジモジしているの背中を沖田が押した。
見廻りに行くぞという合図だ。
初見廻りに本来なら心踊るはずなのに、猛烈に行きたくない。
のその表情を見て、近藤が苦笑した。
「スカートになかなか慣れないかもしれんが、江戸の若い女の子はよく裾の短い着物着てるからな。大丈夫だよ。」
「確かに。そのくらいの丈のスカートはよくある。浮きはしねェよ。」
「は・・・はい。」
は諦めたように、沖田の後に続いた。
の隊服姿に気付いた隊士たちが口ぐちに「可愛いー!」と連呼する。
それを聞きながらは今すぐ部屋に戻って布団を頭から被りたい気持ちになった。
もたもたと刀を腰に差していると、庭から沖田が叫んだ。
「!見廻り行くぞ!」
「はぁい。」
「ダラダラするな。置いてくぞ!」
「あーい・・・。待ってください沖田さんー。」
これから自分は真選組隊士として生きるのだ。
この腕で今度は守り切ってみせる。
「よし!」と気持ちを切り替えて、気合いを入れると、
は駆け足で屯所の門を出た。
これより数日間、江戸の街では真選組の女隊士の話で持ちきりとなる。
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この話をもって、入隊編完結です。
長々と13話にもわたってしまいましたが、お付き合いいただいてありがとうございました。