● 太陽と布団 ●





快晴の昼下がり、沖田は特に何をするでもなく、屯所の縁側を歩いていた。
こんな気持ちの良い午後は、土方をからかって遊ぶのにちょうどいい。
今日はどんな手を使おうかと、顎に手をかけながら歩いていると、沖田の顔に陰がさした。
何事かと沖田は庭を見ると、庭から”ぬりかべ”が現れた。


石ではなく布団の。



「よいしょっと。」


という、可愛らしい声とともに、布団のぬりかべは沖田めがけて倒れてきた。


「うぉ!」



布団に飲まれた沖田は、床に布団ごと倒れた。
沖田の小さい悲鳴に気付いた、声の持ち主は驚いて布団を掻きわけ、沖田を救出した。


「うわわゎ!沖田さん!すみません、そこにいらっしゃったとは気付かず…」
「上司に向かって布団放り投げるとは良い度胸じゃねェか。。」
「すいません!」


強打した後頭部をさすりながら悪態を付く沖田に、は深く頭を下げて謝った。
この少女、一見華奢で可憐に見えるが、れっきとした1番隊の隊士なのである。
もともとは新撰組隊士だったのだが、諸事情によって真選組に入隊したのである。
新撰組時代には伍長を務めており、剣の腕は他の真選組隊士と比べても飛びぬけたものがある。
だが、このように違った意味でもどこか抜けた部分があり、そこが彼女の魅力でもある。

沖田はを怪訝な表情で見上げた。
そう。何故隊士であるが干した布団を取りこんでいるのだろうか。


、お前何してるんでィ。布団取り込むのは女中の仕事だろィ?」
「あぁ、女中のお松ちゃんは夕方からデェトなんです。だから早く帰ってもらいました。」
「はぁ?」
「だって、”デェト”って惚れた殿方にお会いするんですよね?だったら、おめかししないといけないでしょう?」
「だからお松に早引きさせたってかィ?」
「はい!あ、でもナイショですよ。私にそんな決定権ないですから。」
「それでお松の仕事をお前がやってるってェ訳か。」
「そうなんです。」


この会話の最中にも、はせっせと布団を取り込み、縁側にドサドサと布団を置いていく。


「はぁ…、おめかししたお松ちゃん、絶対可愛いだろうなぁ。見たいなぁ。」


干してあった布団を全部取り込むと、は両手を頬に当ててうっとりとつぶやいた。
は新撰組時代は男装して生活していたためか、綺麗な女性を見るのが好きなのである。
決してソッチの趣味は無いのだが、女性に無意識的にキザな言葉をかける”男前”な部分がある。
ポニーテールにすると、中性的な魅力が引き立つなだけに、江戸の町には、いわゆる”ファン”と呼ばれる女性が大勢いる。
もちろん、着物を着て歩く姿は華麗で、に好意を持つ男性も多くいる。
最近は、そんな人たちが集まってファンクラブが立ち上がったとかないとか。
沖田には、それがあまり面白くない。
なんだかを江戸の人達に取られそうな気がして。


「沖田さんは、今から何か用事ですか?」
「特にねェけど。」


その返事にの目が輝く。
いや、布団たたむのなんて手伝わねェよ。


「えー。その一組だけでも」
「まだ俺何にも言ってねェんだけど。」
「私もまだ何も言ってません。」


目で会話しちゃいましたねー。とニコニコ笑うに沖田は少し嬉しくなった。
のこういうところが好きだ。ものすごく。


「しょうがねェなァ。ちょっとぐらいなら手伝ってやらァ。」
「わぁ!ありがとうございます!」


は縁側に散乱した布団の上にボフっと乗った。


「うおー、沖田さん、布団フカフカですよ。」


そう言って布団を抱きかかえるようにしてはゴロンと寝転がった。
この女…、無防備という言葉を知らないのだろうか。
はたまた自分のことを異性と思っていないのか・・・
沖田ものすぐ隣に同じように寝転がる。
本当だ。フカフカで気持ちいい。


「これが太陽の力ってやつかねィ。」


フカフカの布団は太陽の香りでいっぱいである。
沖田らしくない言葉を口にしたのに、からの反応は無い。
いつもなら速攻でツッコんでくるのに。
沖田がの方向へ顔を向けると、



「コイツ…寝てやがる。」



は規則正しい呼吸で眠りに落ちていた。
いくらなんでも寝る速度が速すぎるだろ。
夜すぐに寝付けない沖田にとって、のこのすぐにどこでも寝れる業には尊敬の念すら覚える。
沖田は寝ているの顔をすぐ近くでじっと見つめた。
長いまつげが風にゆれる。
いつもは、このまつげがピヨピヨと動いての豊富な表情を作っているのだ。
沖田はの瞼にそっと口付けた。
が起きる素振りは一切ない。
沖田は何かにとりつかれたかのようにの白いふっくらとした頬を人差指で触った。

フニ

っとやわらかな感触が指先に触る。



「・・・やわらけ。」



マシュマロみたいな頬だ。
この頬にかぶりついたら、マシュマロみたいな甘い味がするんだろうか。


・・・・・・・・。



「って、何考えてンでィ!アホか俺!」



急に我に返った沖田は、今まで自分が取っていた行動に客観的になり、急に恥ずかしい気持ちになった。
何考えてんだ俺!
ガバッと布団から起き上がると、目を細めてを見下ろした。



「相変わらず呑気に寝てやがる。」



自分の心がこの無防備な娘にかき乱されたかと思うと
何だかのことが恨めしく思えてきた。

沖田はが寝ている布団の端を掴むと、ぐるぐると布団でを巻き寿司状態にした。
さすがにこれにはも起きる。


「うわぁ!何ですかコレ!?何事ですかコレー!!」
「うるせェ。お前が悪い。」
「何がですかー!!」
「これでもくらえ!」


沖田は布団で巻いたの上にドシンと乗った。
ウギャー!と色気の欠片もない悲鳴が布団の中から聞こえる。


沖田は一通りをシメて、ようやく解放した。
ヨロヨロと、布団からが這い出てくる。



「ひどいですよ、沖田さん。コレ私じゃなかったら圧迫死しますって。」
「お前がいきなり寝るから悪いんでさァ。」
「・・・そんなことで。」
「何か言ったかィ?」
「いえ別にっ!そういえば、沖田さんが夢に出てきましたよ。」


「俺が?」と驚いたように見る沖田に
そう言うとはまた頬を布団につけてゴロンとなった。いや、正確にはグデンとなったというべきか。
自然と上目遣いになりながらは続けた。


「おっきーな花束を持って、私に結婚しろーって言ったんです。」


沖田は言葉を失った。
はそんな沖田の様子に気付かず、


「あはは、沖田さんが絶対やらなそうな行動ベスト1ですね〜。」


などと、くすくす笑っている。




のくせに・・・」
「え?」



のクセに生意気なんでィ。


なんで俺ばっかりこんな気持ちに・・・



「うぉわ!」


沖田はもう一回布団でをがんじがらめにした。
気が済むまでシメてやる。







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7000Hitライム様へ捧ぐキリリク夢です。
「甘く!限りなく甘く!」という、甘く果てしなくリクエストに見事に撃沈!
おいいぃぃ!これ甘いどころか無糖じゃないかぁぁ!!
ウーロン茶並の甘さ。すみません...
ライム様、全っ然リクエストにお答えしていませんが、よかったら貰ってやってください〜!!