● りぼん ●






とある日の屯所。
今日は非番の沖田が廊下を歩いていると、煙草を片手に持った土方と出くわした。



「あれ?土方さんも今日は非番ですかィ?」
「お前と一緒にするな。仕事がひと段落して息抜きだよ、息抜き。」
「あーあ、ヤダヤダ。ブスっとしちゃって、これだから仕事男ってェのはモテないンですぜ?
 もっと愛想振りまいて生きてかなきゃいけねェですぜィ?」
「あぁ!?お前に言われたくねェよ。第一、何で俺がお前に愛想振りまかなきゃいけねェんだ。」



沖田が土方をからかう、屯所にいつもの光景が広がる。
そんな2人の耳に、真選組からは滅多に聞こえない高い音の笑い声が聞こえた。
真選組唯一の女隊士、の声だ。
沖田と土方は、声のした方を向いた。
ちょうど、屯所の門からと山崎が2人で中に入ってくるところだ。
2人の手にはクレープが握られている。
どうやら帰り道に買って、食べながら歩いてきたらしい。
沖田と土方はその光景があまり面白くない様子だ。



まるで、その姿がデートから帰ってきた2人みたいだったから。



土方がいつもよりも煙草をスーハースーハーと吸って、煙草の長さが急激に短くなっている横で、
沖田はすぐに動いた。




「よう、こら。イイもん食ってるじゃねェかィ。」



沖田はと肩をガッと組むと、まるでカツアゲをする中学生のようにをイビリはじめた。



「あ!沖田さん!えへへ、そうなんですよ。山崎さんに買ってもらいました〜。」



そんな沖田の様子にはまったく気付いていないはヘラヘラと答えた。
その横で山崎が「何事か」といった様子で顔色を悪くしている。
すでに半分ほど減っているクレープは、中からイチゴとチョコレートが覗いている。
沖田は、の手からクレープをとりあげると、



ばくばくばく



食べた。




「あーーーー!!えぇ!!?沖田さん!!食べた!!わたしのクレープ・・・全部なくなっちゃった。」




大きな口、3口で平らげた沖田には非難の声をあげる。
沖田というと、ゆびに付いたクリームを舐めて、シレっとした顔をしている。
3人の傍に、煙草を吸い終わった土方が近づいてきた。
土方は、ふと山崎の持っている紙袋に目が行った。
その紙袋には女の子の服のブランドのロゴが印刷されていた。
どこかで聞いたことのあるブランドだ。



「山崎、その袋・・・。」
「あ、副長、これですか?」



思わず聞いてしまった土方に、山崎がすぐに反応する。
沖田もすぐにその袋を見た。



ちゃんの服のサイズがわからなくて、一緒に選びに行ってきたんですよ。」
「わたし、一度にこんなに沢山服を着たのは初めてです。難しいんですね、洋服っていうのは。」
「うーん、このテの服は一段と着るのが大変なんだよ。でも、いっぱい試着した甲斐あって、一番似合うのが買えたね!」
「そうですか?わたしはコレ、裾が短すぎて恥ずかしいです。」



にこにこと会話すると山崎に、土方と沖田は付いていけない。
なんで、山崎がに服を買うのか。
プレゼント?プレゼントなのか?



「オイ山崎ィ、なんでお前がに服を買うんでィ?」
「え?なんでって、任務のために・・・。」
「「任務?」」
「あの任務ですよ、副長!この前指令を受けた。」



土方の頭をぐるぐると考えがめぐる。
この前山崎に出した指令と、見覚えのあるブランド・・・。




「『メイド喫茶で会合を開く、オタク系攘夷浪士の偵察』か!」




どおりで見覚えがあるはずだ!トッシーに憑依されていたときに、何度も通ったブランドではないか!
ガッテン!と同時に、ある疑問が生じた。



「おい、その任務にどうしてが関係あるんだよ。」



山崎に指令を出したが、その任務にを付けろとは一言も言っていない。
はもともと一番隊隊士なのだ。監察任務はさせない。



「あ、はい・・・。実は、先日俺がそのメイド喫茶に偵察に行ったんスよ。」



山崎によると、そのメイド喫茶は人数が集まるとパーティールームが使えるようで、
オタク系攘夷浪士達は、徒党を組んで会合には、そのパーティールームを使っているらしい。
そのため、客として近くの席に座って情報を聞き出すということが出来ないそうなのだ。



「そこで、俺ら監察もメイドに扮そうと思いましてね、女装をしてメイドの面接を受けに行ったんですが
 見事に全員落とされまして・・・。」
「それでに頼んだってわけか。」



土方はやれやれというように、ため息を吐いた。



「おい、一番隊隊士として、隊長に報告は必須だろうが。」



珍しく隊長の顔をした沖田がに厳しく言った。



「すみません!何分話を聞いたのが今日の今日でして、帰ってから報告しようと思っていました。」



その言葉に、はバッと沖田に頭を下げた。
今日の今日?ってことは、



「お前は俺にを監察に使うって報告しなきゃいけねェだろうがァ!山崎ィィ!!」
「ヒィィィィィすみませんでしたァァ!!」



山崎は土方に向かって、まるで折りたたみ携帯のように腰を曲げて謝罪した。
そんな面白謝罪が起こっている横で、はまだシュンとしていた。
報告ミスがよほどの失態と思っているのだろう。
そんなの姿が愛しく思えた沖田は、ポンポンとの頭に手を置いた。




「ってェ事はですぜィ?ザキの紙袋にはの着る予定のメイド服が入ってるってことかィ?」
「そうですよ。」



紙袋の中を覗くようにして言った沖田にが答える。



「見せろィ。」
「そうだな、副長としてもどんな服装で任務をするのか把握しておく必要がある。」
「どんな必要だよ!」



沖田だけでなく土方の興味の持ちように、山崎がすかさずツッコむ。
山崎がガサゴソと紙袋から服を取り出そうとすると、2人が制止した。



「「いや、)が来て見せろ。」」



やっぱコイツ等そういう魂胆だったかーー!!!!



山崎の声にならないツッコミが空気に消えた。






















土方の部屋で、沖田、山崎、土方の3人はが着替え終わるのを待っていた。



「おい、山崎はさっき店で見たんだろィ?ここにいなくてもいいじゃねェか。」
「え?何言ってるんスか!場所を変えてもちゃんと似合うかどうか監察として確認する必要がありますからね!」



フンっ!と、鼻息を荒げて返す山崎に土方が呆れた顔をする。
自分がそんな顔をできる立場でないことは棚に置いてだ。
そこに、空いていた襖から、がヒョコンと顔だけ出した。



「あ、あの・・着たんですけど、改めて着てみるとコレ・・・恥ずかしいです・・・・」



そんな恥ずかしがり方にも、頭からお花がフワーと出そうに「萌えー」な雰囲気を出す3人に、
は、「あぁ、もう何を言ってもダメか」と悟った。
短いスカートの裾を引っ張るように、モジモジしながら全身を披露したに、3人は目を開いた。

これでもか!というほどにレースをあしらった純白のブラウスの上に、黒いフリフリとしたワンピースを着ている。
付いているリボンの数は数え切れないほどだ。
黒いニーハイソックスを履いて、の白く細い太ももが強調される。いわゆる絶対領域が、その意味を完璧に成しているのだ。
そして髪の両サイドに、ワンピースと同じ黒いレース付きのリボンを結んでいる。




かわいい。




それ以外に表す言葉がないくらい。「萌え」を完璧に着こなしている。
固まったように動かない3人に、はあたふたする。




「あの!やっぱり、洋服は似合わないっていうか、こんなチョウチョウ結びばっかの服より袴のほうがシックリくるなぁ〜あはっあはは!」




すぐに着替えてこようとしたに、山崎がガバっと抱きついた。




「うわっ!山崎さん!?」
ちゃん!やっぱし俺の選択は間違ってなかった!かわいい〜〜〜〜!!!っておぶっ!!」



抱きついた山崎を、すぐに引き剥がし、沖田は山崎の顔面に裏拳をきめた。
山崎は地面に伏した。
驚いて目を丸くしているの両肩を沖田は掴んで、一旦ギュっと抱きしめると、の目をじっと見て言った。



「ちょっと、スカートをめくらしてもらっていいかィ?」





スパーーーーン!




と、真面目顔で言った沖田の頭を土方がチョップした。
沖田も地面に伏した。
またもや目を丸くしているに、土方は「あー」と、頭をガシガシかきながら言った。



「その、良く似合ってるじゃねェか。」



女性を褒めるのに慣れていないのだろう、土方がから視線を避けるようにしてボソっと呟いた。



「なんか、土方さんに褒めてもらえたら、自信が出てきました。」



土方に褒められたことには嬉しくなり、ふわっと微笑んだ。
の花のような微笑みに、土方だけでなく床から顔を上げていた山崎と沖田も顔を赤くした。




『おかえりなさいませ、ご主人さま』




はおなかに手を当てて、丁寧にお辞儀した。




「セリフってこれで合ってま・・・・むぐ」





買い物の最中に山崎に教わったセリフを披露したの口を3人が一斉に手で塞いだ。
じたばたするをがんじがらめにして、身動きを封じる。




「おい、お前ら、俺の言いたいことはわかってるな。」
「「もちろんです(でさァ)」」





「「「メイド喫茶潜入捜査中止っっっ!!!!!」」」






こんな可愛らしいメイドさん、目立っちゃって任務になりませんからァァァァァ!






















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10000hitキリバンのあや様へ捧げます!

『長編ヒロインが山崎さんと楽しげにしているところ(恋人同士ではない)に土方さんと沖田君が遭遇!
二人に嫉妬してヒロインに対して何かアクションを起こす。
三人に共通で、ヒロインに触れるか、見惚れるかした後、思いっきり焦るか、照れ隠しをする!』

という、任務!
えーっと、クリアできている個所はあるかなー!?爆
半年待たせて、まるで無糖!白湯のような仕上がりですが、
あやさま、よかったら貰ってやってください。